恋愛映画から不良漫画まで なぜ“ファミレス”が物語の舞台に選ばれるのか?

“ファミレス”が物語の舞台に選ばれる理由

 『コントが始まる』(日本テレビ系)と『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系、以下『まめ夫』)は、春クールに話題となったオリジナルドラマだが、どちらもファミレス(ファミリーレストラン)が印象的な場所として登場する。

 金子茂樹脚本の『コントが始まる』は、売れないお笑いトリオ「マクベス」の芸人たちがネタ合わせをする場所としてファミレスが登場した。そこでアルバイトとして働いている中浜里穂子(有村架純)の視点から、マクベスが解散するまでの時間を本作は追いかけていく。

 対して坂元裕二脚本の『まめ夫』では、主人公の大豆田とわ子(松たか子)が小鳥遊大史(オダギリジョー)と会う場所として登場する。ちなみに、とわ子と小鳥遊の関係が深まっていく過程を描いた第8話のサブタイトルは「ファミレスの密会・深まる秘密の恋心」。

 脚本を手がけた坂元裕二は、物語の舞台に、ファミレスを登場させることがとても多い。今年の1月に公開された坂元裕二脚本・土井裕泰監督の恋愛映画『花束みたいな恋をした』(以下、『はな恋』)は『コントが始まる』で主演を務めた菅田将暉と有村架純が主人公のラブストーリーだが、この作品にもファミレスが繰り返し登場する。

 『はな恋』のパンフレットに収録されている宇野維正のインタビューの中で坂元は、ボックスシートがアメリカっぽいことや、客の話している内容が「マルチ商法から別れ話」まで幅広いことをファミレスの魅力として挙げており「ファミレスで話されていることこそが僕が話して欲しいこと」だと語っている。

 確かにファミレスは、“ファミリーレストラン”と言っても、必ずしも家族連れだけが来る場所というわけではない。時間帯によっては家族連れとは真逆の、強面の不良や素性のわからない怪しい人もたくさん見かける。

 松本大洋の短編集『青い春』(小学館)に収録された作品に『ファミリーレストランは僕らのパラダイスなのさ!』という、そのものズバリの短編漫画がある。

 1992年に発表された本作は、ファミレスに集う不良たちがどうでもいい話を延々と繰り広げる様子をスタイリッシュな絵で切り取ったもので、ファミレスが漫画の題材として成立すること自体が、とても新鮮だった。

 松本大洋のいとことしても知られる漫画家の井上三太も『TOKYO TRIBE2』(祥伝社)の中で、トライブ(族)と呼ばれる不良グループが集うたまり場としてファミレスを描いていた。

 堤幸彦がチーフ演出を務めた宮藤官九郎脚本のテレビドラマ『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)でもファミレスがたまり場となっていた。この時期の漫画やドラマを観ていると、不良=ファミレスだったことがよくわかる。

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