イ・ソンミンが数珠と斧で闘う! 韓国オカルトスリラー『第8日の夜』の意外な見どころ

韓国オカルト『第8日の夜』の意外な見どころ

 『ミセン』では“ウリ”=うちの部下という言葉でチャン・グレの心を震わせ、『弁護人』では卵を投げつけられたソン・ガンホ演じる弁護士にそっとスーツを貸し、『目撃者』では事なかれ主義の小市民からヒーローに転じるなど、どの作品においても思わず見惚れてしまう瞬間を生みだしてきたイ・ソンミン。

 本作では、封印が解かれたことを知らせに来た若い僧侶チョンソクと出会い、立ち上がることになる守護者に。悔恨を内に秘め、生気のない顔をしていた男が、人間を無残な姿にする「赤い目」の行方を前のめりで追うようになっていく。コメディ演技は一切“封印”、血塗れた数珠を手に結界を張り、練習を重ねたというサンスクリット語で経を唱える、まったく新しいイ・ソンミンだ。思い悩み、考え込む彼の影が一瞬、まるで釈迦の弟子・弥勒菩薩のように見える場面も恐らく意図的に作られている。

 その上、『ミセン』ファンにとって注目なのは、連続変死事件を担当する刑事キム・ホテをパク・ヘジュンが演じていること。営業3課に複雑な思いで帰ってきたチョン課長役の彼も、昨年『夫婦の世界』の不倫夫役が話題を呼び、遅咲きのブレイク中だ。

 この2人の対比がまた興味深い。特に終盤の局面、地獄をもたらす「赤い目」と「黒い目」が象徴するものについて、イ・ソンミン演じるジンスが若き僧侶チョンソクに話して聞かせるシーンがある。ジンスは過去の苦痛(仏教用語で煩悩)に囚われた代表者で、収まらない怒りによって赤い目を抱いている。一方、パク・ヘジュン演じるキム刑事はこれから起こる未来への不安(同じく煩悶)に蝕まれた代表者であり、その目は黒く濁っていく。過去や未来に心を奪われすぎていたら地獄も同じ、今を生き抜けなくなる、という示唆にも思えてくるのだ。

子役出身、次なるブレイク俳優候補は一見の価値あり

 ジンスと守護者の旅を共にする若き僧侶チョンソクを演じるのは、子役出身で『王は愛する』でイム・シワンの少年時代を演じ、『記憶〜愛する人へ〜』ではイ・ソンミンの息子役でも印象を残したナム・ダルム。『パラサイト 半地下の家族』のチョ・ヨジョン主演『凍てついた愛』で、物語の発端となる中学生を演じていたことも記憶に新しい。

 本作でもイ・ソンミン演じるジンスと彼が演じるチョンソクには因縁があり、行動を共にするうちにバディのようになっていく。1日1日と緊迫が高まる中で、無邪気な瞳で訴える黙言(言葉を話さない修行)中の彼と、仏頂面のジンスとの対比は微笑ましいほどで、この疑似的な父子関係からも目が離せなくなる。ナム・ダルムは純朴さの権化のように終始イノセントな光を放っており、本作を観た後は彼についてもっと知りたくなるに違いない。

 さらに、7人目の踏み石となる“処女菩薩”と呼ばれる少女エランを演じているのが、『トンイ』『太陽を抱く月』などで子役から知られ、パク・ボゴムとの共演ドラマ「雲が描いた月明かり』で成長した姿を見せたキム・ユジョン。撮影自体は約2年前ということもあってか、髪を短く切った姿が鮮烈で、彼女のピュアネスもまた異様なまでに際立っている。ただ、『ザ・コール』や『Mine』などを経てきた今、彼女の役柄の扱い(と日本語訳)が気になってしまって仕方がなかったのが残念だ。

参考記事

https://www.mk.co.kr/news/culture/view/2021/06/622468/

■上原礼子
女性誌・情報誌などを経てエンタメライターに。韓国ドラマの入口は『トキメキ☆成均館スキャンダル』。第4次韓流ブームの波に乗っています。Twitter

■配信情報
『第8日の夜』
Netflixにて独占配信中

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