岸井ゆきのが息子に伝えた「ただいま」 『#家族募集します』で積み重ねる“助け合う時間”

生きづらさを変えていく『#家族募集します』

 蒼介がお好み焼きを分け合って笑う家族に憧れてやまないのは、かつて父親が出ていき、シングルマザーとなった母親にも見捨てられたから。ひとりでメロンパンをかじることが当たり前になりつつある大地に、蒼介のかつて大きく傷ついた部分がうずくのだ。いつもならば、思いつくままお節介なほどに行動していく蒼介。だが、今回ばかりは蒼介に代わって俊平が動き出す。

 一方、自由奔放に見えためいくも、育児と自己実現の間で揺れ動いていた。ちゃんとした母親になることは、シンガーソングライターになる夢を捨てることなのだろうか……。今もなお根強く信じられている母性神話。自分のことよりも子どもに尽くす、そんな母性が必ず女性には備わっているという説だ。

 しかし、神話はあくまで神話。現実とは必ずしも一致するものではない。子育ての大変さに「逃げ出したい」「楽しくない」「自分には母性がないのでは?」と悩む女性は多いのだ。個性を尊重し、男女問わず自分らしくキャリアを築こうという社会の流れの中で、母親になるという選択をした瞬間、一律の「いいお母さん」像を目指さなければならないプレッシャーがあるように感じる。

 自分の人生やキャリアを目指すことと、母親として子どもに愛情を注ぎ育てること。それを両立していくためには、きっともっと他者の手を借りやすい空気が必要なのではないか。それがお金を払って受けることのできる各種サービスでもいいし、ご近所さんのような仲間でもいい。

 「帰りましょう」「おかえりなさい」そう言って、物理的に、そして精神的にガスを抜ける確かな信頼関係があれば、それはもう新しい「家族」の形と言えるのかもしれない。「家族になる」とは、きっとピンチを助け合う時間の積み重ね。今はそんなピンチを誰に叫んでいいのかわからない世の中になってしまったのかもしれない。

 あなたにはピンチのときに駆けつけてガスを抜いてくれる人はいるだろうか。そして、逆にあなたは誰かのガスを抜く存在になれれているだろうか。この張り詰めた社会の生きづらさを変えていく一歩に、『#家族募集します』がなってくれるような気がしている。

 まだ、家族の入り口にようやく立った仲間たち。そして次回はついに俊平が妻・みどり(山本美月)が帰らぬ人になったことを陽に伝えるようだ。それは、俊平にとって残酷な現実を本当の意味で受け入れるということ。完璧な家族はない。だからこそ、常に欠けてしまった何かと向き合い、補っていく作業が家族には発生する。失われたものとどう向き合っていけばいいのだろうか。そのヒントを、心揺さぶる演技で私たちに伝えてくれるのではないだろうか。

■放送情報
金曜ドラマ『#家族募集します』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:重岡大毅(ジャニーズWEST)、 木村文乃、仲野太賀、岸井ゆきの、佐藤遙灯、宮崎莉里沙、三浦綺羅、丸山礼
脚本:マギー
演出:福田亮介、村尾嘉昭
プロデューサー:佐久間晃嗣、岩崎愛奈、那須田淳
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS

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