『おかえりモネ』涙なしでは観られない浅野忠信と永瀬廉の名演 新次が“立ち直らない理由”

『おかえりモネ』新次が“立ち直らない理由”

 酔って行方不明になっていた新次(浅野忠信)が発見され、永浦家に運び込まれた。新次が見つかったのは、彼の昔の家があった場所だったという。津波に飲まれ、崩壊した家屋。微かに残る、玄関先に座りこみ、そこに確かにあった家族の思い出に背をもたれて酒を飲む新次。そんな彼の姿を見て、正直、先日熱海であった大惨事のことも考えずにはいられなかった。“家をなくす”ということは、単純に住処を失うことではない。

 『おかえりモネ』(NHK総合)第39話は、新次のアルコール依存症とその根にある彼の思いや苦しさが明かされ、涙なしでは観られない辛い回だった。

 風呂に入り、多少アルコールが抜けて落ち着いた新次は永浦家の面々に囲まれながらポツリポツリと話し出す。「5年間ってそんなに長いですか?」と、問いかける新次。震災時には大金を叩いた船も、愛する妻も、家も、一気に失った。財産を失くした人間が再び前のような生活を取り戻すことは、決して容易いことではない。そういった物理的な問題に加え、精神的な傷も計り知れないからだ。

 彼が握りしめている古い携帯には、妻・美波(坂井真紀)の最後の声が留守電で残っている。新次にとって、5年という月日が経ったとしてもその日のことは昨日のように思い出すだろうし、5年経ったからじゃあ、と簡単に苦しみを拭い去って前を向いて歩くなんて綺麗事でしかないのだ。

 何より辛いのが、彼が今回飲んだお酒がやけ酒ではなく、“祝い酒”だったこと。息子の亮(永瀬廉)からの「メカジキを50本釣り上げた」とう連絡を受けて、その彼の様子に感嘆した新次。やってられねえ、と自分が逃げ出すための酒ではなく、独り立ちして立派な漁師になりつつある息子のことが嬉しくて飲んだ酒なのだ。しかし逆にそのせいで、その喜びを分かち合う相手がいないことを実感してしまう新次。

「言っていることはガキなのに、声が子供ではなかったことがものすごく嬉しくて、俺に似て筋がいいんじゃないかって。それを、しゃべる相手が、話す相手が、いない」

 咽び泣きながら、感情を吐露する新次。だから気がついたら家があったところに戻ってた、迷惑をかけてごめん、なんて謝る姿が余計つらくて、永浦家の全員が彼の苦しさに涙を流した。

 しかし、その場で誰よりもその言葉を辛く受け止めたのは、静かに後ろで聞いていた息子の亮だ。昔の家族の思い出や、亡くなってしまった母の残像に囚われた父は、自分を祝ってくれているけど、それなら“自分と”祝ってほしい。その場にいるのに、その辛さを分かち合わせてくれない父を、どうにか亮は元気付けたくて母が昔歌っていた歌を声を振るわせて代わりに歌う。彼自身、母の代わりにはなれないのは十分わかっているはずなのに、それでもそうしようとする彼の気持ちが本当に切なくて悲しい。そこに追い打ちをかけるように、新次が「俺は歌なんかじゃごまかされない」と息子を突き放してしまう。

 「俺は立ち直らねえ、立ち直らねえよ」と、握りしめた携帯に向かって言った。ここで、ああ、“立ち直れない” が“立ち直らない”になっているんだ、ということに気づく。彼にとって、立ち直ることは妻を忘れることになってしまっているのだ。

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