“あした”に向かって手を伸ばす物語『NOMAD メガロボクス2』 第1期からの変化を考察

『NOMAD メガロボクス2』を振り返る

“NOMAD”としての自分との訣別

 つまり、本作はジョーの「“NOMAD”としての自分」との訣別の物語でもある。チーフが故郷も息子も亡くした後、カーサの家族を守りたいと思うまで苦しんだように、言うまでもなくその訣別は簡単にはいかない。過去と向き合い、今を見つめ、未来に手を伸ばすことが必要となる。

 ジョーが過去と向き合うことを決意し、鎮痛剤の服用をやめても、ご都合主義的にすぐに治りはしないのが、ドラマを丁寧に描いている証でもある。ジョーは南部の幻影に苛まれ続けた。しかし、南部の死の痛みと向き合ってやっと幻影は消え、手の震えの症状も治まる。それにより、ジョーが痛みから逃げることをやめ、乗り越えたことを視聴者が納得できる構成になっている。「『NOMAD メガロボクス2』スペシャルインタビュー」内で、脚本を務めた小嶋健作は「死んでいく自分の大切な人を見守り続けるっていう事は、しんどくて当たり前。その当たり前の事を当たり前に描こうと。それがあってこそリングの上で命をぶつけ合うっていうこともちゃんと描けるんじゃないかと考えていました」と語っていた。

 また、第7話でジョーは現チャンピオンのリュウに、「何もかも捨てて逃げ出したくせに、あんたはメガロボクスだけは捨てられなかった。あんたがリングを降りる時は、この世とオサラバする時だ。違いますか?」と問われる。どんなに心も体もボロボロになっても、ジョーはリングに上がり続けた。ジョーはそうすることでしか生きられない、メガロボクスのリングの上でしか心の底にある想いを語ることができない、不器用な男だ。しかしジョーは、自分が逃げたことを素直に認め、何度サチオに拒否されても根気強く向き合い続ける。壊れた番外地ジムも黙々と直し続け、想いを行動で示す姿に、一度は絶たれてしまった家族たちの絆がまた結ばれていった。

 ジョーならきっと、“夢の続き”を見せてくれると信じて。皆が今を見つめ、未来に手を伸ばすことにした。ジョーが孤独から立ち上がり、徐々に荒みきったノマドから”ギアレス”ジョーに戻っていく姿は、第7話のリュウとのスパーリングでのスロースターターぶりともリンク。特に皆が番外地ジムに揃う第11話は、「やっとここまで来た!」という、待ちに待った瞬間の訪れに歓喜した。

「あした」に向かって手を伸ばす物語

 ジョーが“NOMAD”としての自分と訣別するということは、過去を捨て去るということではない。ジョーが南部の死から逃げたのと同じように、チーム番外地メンバーで力を合わせ、メガロニアで優勝したことも過去だ。第10話、回想シーンで南部が「忘れんなよジョー。俺たちが生きてきた時間は、誰にも奪えねぇ。そいつはこれからも同じだ。だから最後まで戦い抜け。俺はお前と一緒に居る」と語るように、全てが「今」に、そして「未来」に繋がっていく。サチオがメガロボクサーを経験したことも周り道だったかもしれないが、それがマックと対戦するジョーのギアの調整という「今」に、そしてエンジニアとしての「未来」に活きる経験になった。

 『NOMAD』では、そんな未来への希望がこれまでと異なる形で描かれた点が、完璧なラストを迎えたかに思われた第1期の続編を描くという上で、非常に素晴らしいポイントだ。第1期ラストでのジョーと勇利の試合は、互いに「お前となら、どこまでも行ける気がするんだ」と、壮絶な打ち合いが観る者の魂を震わせた。未来を掴み取るという目的はあれど、そこには何者にも縛られない、ジョーと勇利の二人だけの刹那の世界があった。まさに『あしたのジョー』の矢吹丈と力石徹の対戦だ。

 それに対し、『NOMAD』ラストでのマックとの試合では、ジョーがまず戦うこと自体をチーム番外地の家族に相談。“ギアレス”ではなく、「ここでみんなで生きていくために」とチーフの形見のギアを着け、タオルを投げるかどうかもサチオに任せ、文字通りチーム番外地のみんなで戦った。それは、自分を支えてくれた家族と、警察官時代の相棒のハキーム、そしてこれまで自分を見続けてきた吉村と共に戦ったマックも同じだ。試合はサチオがタオルを投げて終わるが、観客も含め皆晴れやかな顔をしている。それはジョーが、そしてマックが、「今」だけを生きるのではなく、家族たちと共に歩む「あした」へ懸命に手を伸ばす姿があったからだ。

 サチオがエンジニアを目指して番外地ジムを出ていくところをジョーが見送り、物語は幕を閉じる。でも、今度こそきっと大丈夫。彼らにはいつでも帰ることのことのできる、温かい明かりの灯る家が、そして家族がいる「あした」があるのだから。

■桜見諒一
パブリシスト/国内外の実写・アニメーション映画を中心に幅広い作品の宣伝業務を行う傍ら、2021年よりライター活動を開始/Twitter

■配信情報
『NOMAD メガロボクス2』
各配信サイトにて配信中
原案:「あしたのジョー」
監督・コンセプトデザイン:森山洋
脚本:真辺克彦・小嶋健作
キャラクターデザイン:倉島亜由美
音楽:mabanua
アニメーション制作:トムス・エンタテインメント
製作・著作:メガロボクス2プロジェクト
(c)高森朝雄・ちばてつや/講談社/メガロボクス2プロジェクト
公式サイト:https://megalobox.com/
公式Twitter:https://twitter.com/joe50_megalobox

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アニメシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる