川口春奈主演『着飾る恋』は『テラスハウス』のアンチテーゼだった!? 火曜ドラマの新境地

『着飾る恋』が達した火曜ドラマの新境地

 川口春奈と横浜流星の共演で20代のリアルな恋を描いた『着飾る恋には理由があって』(TBS系)が完結。最終話、川口演じるインテリアセレクトショップの広報・真柴がパートナーとして選ぶのは、同居人から恋人になったシェフの駿(横浜流星)なのか。それとも片思いしていた元上司の葉山(向井理)なのか? 直前の第9話は駿に北海道行きの話が出て、葉山が真柴を抱き寄せるシーンで終わっただけに、女性視聴者から熱く支持された“シャチ”こと葉山と結ばれるのではというどんどん返しへの期待も高まった。

 真柴は広報としてSNSを駆使し、Instagramのフォロワーは10万人超え。表参道近くにある料理研究家・香子(夏川結衣)の広々としたマンションに下宿するような形で住み、駿やカウンセラーの陽人(丸山隆平)、画家志望の羽瀬(中村アン)と同居することに。恋愛ドラマの定番、シェアハウスものとして始まったこのドラマ。真柴と駿がお互いへの気持ちを確認した頃、社長を辞任した葉山もマンションに居候することになって、終わってみればめでたく、真柴と彼女の選んだ人、陽人と羽瀬という2組のカップルが誕生したわけである。そのカップル成立の結果だけ見れば、まさにリアリティショーの『テラスハウス』的だ。しかし、このドラマがもし『テラスハウス』を意識しているとすれば、むしろ、そのアンチテーゼとして作られているように見えた。

 例えば、シェアハウスに暮らすはとこ同士の駿と陽人は、真柴が引っ越してきた当初、2人とも彼女を意識していたが、真柴から相談を受けた陽人が「相談者さんには手を出さん」とあっさり戦線離脱して、骨肉の争いは起きず。また、後半、駿は葉山が真柴を恋愛対象として意識していることに気づくと、それを真柴に告げる。その時点で真柴とは付き合っている感じになっていたのに、まだ真柴の中に葉山への気持ちが残っていることを見抜き、その思いを尊重する。しかし、そこで真柴は「藤野さん(駿)が好き」とはっきり告げ、2人を両天秤にかけようとはしない。“キープ”も“ワンチャン”もなし。あくまでフェアに人間関係を築いていこうとする5人の恋模様は観ていて気持ちのいいものだった。同世代である20~30代の多くの人にとってもリアルだったのではないだろうか。

 『テラスハウス』でありがちな女性同士のいざこざも起こるが、泥沼にはならなかった。絵画コンクールに落ちた羽瀬が真柴に八つ当たりしてしまうものの、すぐに和解。その後、羽瀬が妊娠しているかもしれないという状況になったときは、真柴が彼女を優しくフォローした。『リコカツ』(TBS系)でヒロインの咲(北川景子)を夫の同僚・一之瀬(田辺桃子)が陥れ攻撃し、作りすぎた煮物で料理の腕をアピールして、視聴者に“筑前煮女”とブーイングされたのとは対照的である。

 昭和の昔からシェアハウスのドラマはたくさん作られてきた。「ひょんなことから若い男女が同居することになって……」というあらすじの作品は、正直、もうお腹いっぱい感はある。最近の流行は、『イチケイのカラス』(フジテレビ系)、『ナイト・ドクター』(フジテレビ系)、『恋はつづくよどこまでも』(TBS系)など、同じ組織で働く男女が職員寮で隣の部屋に住むというあまり無理のない設定なのだが、本作の登場人物は職業がバラバラ。香子に選ばれた者だけがおしゃれなマンションで暮らせて、キッチンや風呂、ランドリーは共用という設定も『テラスハウス』的だった。

 キッチンで真柴が駿の作った料理を食べたり、バスルームの洗面スペースで着替え中の駿に真柴が遭遇したり、壁を手でコンコンと叩いて「おやすみ」と言い合ったり、眺めのいいベランダで一緒に毛布にくるまったりと、同居シチュエーションならではのエモいシーンが毎回出てきた。『アンナチュラル』『MIU404』(ともにTBS系)の塚原あゆ子監督作品であるだけに、ベタというよりは、リアルにありえるラインを追求していたように思う。

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