安達奈緒子脚本の真骨頂 “ゆっくり”と過去が描かれる『おかえりモネ』の斬新さ

“ゆっくり”過去が描かれる『おかえりモネ』

 その点で、第14・15話は秀逸だった。その日皆で見た演奏会の映像で流れていた音楽が、眠ろうとする百音の頭から離れず、その音楽に合わせて、アルトサックスの演奏に夢中だった百音がこれまで音楽と共に生きてきた記憶が甦る場面である。そしてそれは、同様に音楽を愛する父・耕治との父子の記憶でもあった。軽快な音楽が止んで描かれる、百音の高校受験への挑戦と失敗、そして静かにカレンダーと卓上時計によって呈示される2011年3月11日「その時」の彼らの物語。耕治と百音、未知という仲良し親子・姉妹の中に時折見え隠れする小さな屈託の原因が明らかになった。

 また、第18話において、共に酒を飲む耕治に対して新次が、内に秘めていた感情を一気に吐き出すきっかけになったのは、「いつもそつのない」耕治が新次に差し出した折り畳み傘だった。恐らく『半沢直樹』(TBS系)や『ハゲタカ』(NHK総合)でも描かれた「銀行は雨の日に傘を取り上げ、晴れの日に傘を貸す」という言葉が根底にあるのだろう。家業を継ぐのでなく「俺はこっちの道を行く」と自分で選んだ銀行員の仕事によって、耕治が抱き続ける新次に対する負い目もまた、この先どう描かれていくのかが気になるところだ。

 今週は、耕治と亜哉子の青春が描かれる、楽しい週になりそうだ。まだ、私たちは彼らのことをちゃんと知らない。彼らの日常と、彼らが抱えてきた大きな喪失を断片的に知っただけである。彼らの現在の姿を形成したのは、彼らがこれまでに過ごしてきた日々の積み重ねであるために、彼らを知るためには、これまでの日々を辿っていく必要がある。

 これから、「未来を予測する」気象予報士を目指す百音の成長と同時進行で描かれるのだろう、登場人物たちの心に寄り添うようにゆっくりと過去を遡り、徐々に解き明かされていくのだろう物語に、期待せずにはいられない。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住。学生時代の寺山修司研究がきっかけで、休日はテレビドラマに映画、本に溺れ、ライター業に勤しむ。日中は書店員。「映画芸術」などに寄稿。Twitter

※高田彪我の「高」はハシゴダカが正式表記。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:清原果耶、内野聖陽、鈴木京香、蒔田彩珠、藤竜也、竹下景子、夏木マリ、坂口健太郎、浜野謙太、でんでん、西島秀俊、永瀬廉、恒松祐里、前田航基、高田彪我、浅野忠信ほか
脚本:安達奈緒子
制作統括:吉永証、須崎岳
プロデューサー:上田明子
演出:一木正恵、梶原登城、桑野智宏、津田温子ほか
写真提供=NHK

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