『あのキス』松坂桃李×麻生久美子×井浦新が起こした“奇跡” 愛する人に思いを伝える大切さ

『あのキス』松坂×麻生×井浦が起こした奇跡

 『あのときキスしておけば』(テレビ朝日系)が6月19日に最終回を迎えた。

 いいヤツだけど途轍もなくポンコツで、平凡に生きていた桃地(松坂桃李)と、大ヒット漫画家として華やかな生活を送っていたが、冴えないおじさん・マサオ(井浦新)と魂が入れ替わってしまった巴(麻生久美子)の恋をコミカルに描いた本作。現実には起こり得ないファンタジーな設定でありながら、人と人の“出逢い”と“別れ”にとことん向き合った作品だった。

 おじいさんとおばあさん、おじいさんとおじいさんになっても一緒にいたいとプロポーズし、オジ巴(=巴)と“あのとき”できなかったキスを交わした桃地。しかし、マサオの身体に巴の魂が入っている時間は確実に減っており、これがオジ巴と会った最後の時間となった。

 そんなことはつゆ知らず、桃地はスーパーゆめはなの仲間たちにプロポーズとキスの報告をして大はしゃぎ。噂は巴の元夫・高見沢(三浦翔平)のところにも広まり、桃地と巴の結婚式の企画が持ち上がる。巴が戻ってきたらいつでも決行できるように、余興でやるフラダンスの練習、巴の母・妙(岸本加世子)への挨拶と周到に準備を重ねる桃地。そんなハッピームードの桃地に釘をさすかのような出来事が。『SEIKAの空』の原稿が最終回までアップされていると高見沢から連絡が入ったのだ。

 嫌な予感がした桃地は田中家を尋ねるが、マサオは朝早くに出かけたという。実は桃地の知らない間に戻っていたオジ巴は、実家から『週刊少年マキシマム』の編集部へと関係者の元を訪ね歩いていた。

 久しぶりとは思えないオジ巴のハイテンションぶりに戸惑う妙や高見沢。しかし、流石は巴のことを知り尽くしている2人。彼女が別れを言いにきたことをすぐに察するが、巴を引き留めたくて「明日も明後日も会いにきて」と乞い願う妙や、焦るように新連載の話を持ちかける高見沢の姿に胸が痛む。

 大好き。愛してる。ごめんね。ありがとう。普段は気恥ずかしくてなかなか口に出せない言葉だからこそ、大切な人が生きている間に伝えられなかったことを私たちは後悔する。妙も高見沢も、本当だったらそんなとてつもなく大きな後悔を抱えたまま生きていただろう。けれど、奇跡が起きて巴と最後の時間を過ごすことができた。それでも愛する人を失うことには変わりなく、悲しみが癒えるわけではない。

 一方で、自ら死を選ぼうとしていたマサオは、妻の帆奈美(MEGUMI)と再び向き合い生きていくことを決意する。一度外した結婚指輪をはめるマサオと帆奈美。思いは口に出さなきゃ伝わらない、すれ違ったまま二度と会えないこともあることを身をもって経験した2人は息子の優太郎(窪塚愛流)と共に喜びも悲しみも分け合って年を重ねていくのだろう。

 オジ巴の存在は様々な“人と人”とを結びつけた。キャベ次郎が姿を消し、モヤ夫に想いを託す『SEIKAの空』の最終回を読み、巴のいない現実を受け入れたふりをする桃地は以前のように1人で彼女を待ち続けようとするが、そんな彼を放っておく人はもういない。巴と出会ったことでしまい込んだ感情を表に出し、より一層魅力を増した桃地にはたくさんの仲間ができた。そして、その仲間たちは裏で準備を進めて、桃地と巴の結婚式を開く。

 ほとんど言葉を交わすことがなかったスーパーゆめはなの同僚、恋敵から巴を愛する同志として共に走ってくれた高見沢、そして本来なら出会うこともなかった田中家の人々、蟹釜ジョーを支えた編集者たち。マサオがオジ巴のフリをしていることを桃地も実は気づいていたが、それは「一人じゃない」と実感できるかけがえのない時間となった。

 他人と関わるのは怖い。いつの間にか傷つけたり傷つけられたり、好きになればなるほど別れが寂しくて臆病になってしまう。それでも自分だけの部屋から一歩を踏み出した先に、一人では見ることができなかった景色が広がっている。

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