『あのキス』貴島彩理Pが語る、死のテーマを笑いと共に描くこと 最終回は「第7話を超える」

貴島彩理Pが『あのキス』に込めた願い

 これまでも数々の話題作を世に送り出してきたテレビ朝日系金曜ナイトドラマ枠で現在放送中の『あのときキスしておけば』。幅広いキャラクターを演じ、実力派俳優として世代のトップを走り続けている松坂桃李が、ポンコツキャラを演じるコメディということで注目を集めていたが、放送がスタートすると、松坂演じる桃地の愛らしいキャラクターをはじめ、桃地がこよなく愛する漫画『SEIKAの空』の作者・唯月巴(麻生久美子)、さらには事故によって、巴の魂が乗り移ってしまった井浦新演じる“オジ巴”など、不器用ながらも懸命に生きる、愛されキャラが多数登場し、金曜日の夜の憩いのひとときを提供してくれている。

 そんな物語もいよいよ6月18日、最終話を迎える。第7話のラストで、ついに初めてのキスを交わした桃地と巴……。果たして二人にはどんな結末が待っているのだろうか――。本作のプロデューサーを務める貴島彩理氏に話を聞いた。(磯部正和)

ファンタジーな設定、受け入れやすく

――主人公ではなく、主人公が愛する女性と、まったく知らない冴えないおじさんの魂が入れ替わってしまうという斬新な「入れ替わりラブコメ」でしたが、非常に大きな反響になっていますね。

貴島彩理(以下、貴島):とてもありがたいことだなと思っています。反響を拝見していると、メインキャラクターはもちろんなのですが、三浦翔平さん演じる高見沢や、スーパーゆめはなの猫背椿さん演じる郷田さん、六角慎司さん扮するエグゼクティブ真二など、個々のキャラクターを応援してくださる声も多く、ひとえにキャストの皆さまの素晴らしいお芝居のおかげだなと思っています。また、話が進むにつれ、井浦さんと麻生さんを“純粋に1人の人間”として見てくださる視聴者が増えていることも嬉しいです。第7話のキスシーンの放送後、男とか女とか、生とか死とか、そういうものを全て飛び越えて桃地と巴の恋を応援してくださる声を多く目にして、この作品を通してやりたかったことに辿りつけたのかな、と思いました。

――井浦さんと麻生さんが同一人物に見える……という部分では、映像的にも井浦さん演じる巴に麻生さんがオーバーラップするなど、面白い演出でした。

貴島:第7話までに関しては、桃地の巴に対する感情が高ぶったり、オジ巴の憑依について誰かに信じてもらえたり……というタイミングで、桃地の目を通して、オジ巴が麻生さんに見えてくる……というルールに基づいて描いてきました。ただ最終話では、そのルールが少し変わっている部分もあるので楽しみにしていただけたらと。


――オジ巴が、本当の巴だと信じていく描写がとてもスムーズで、「入れ替わり」というファンタジックな設定なのにリアリティが感じられます。意識したことはありましたか?

貴島:脚本家の大石静さんと、さまざまなシーンを現実に置き換えて考えました。例えば監督の本橋圭太さんと私が、ある日突然入れ替わって大石さんの前に現れたとして、どうしたら信じてもらえますか……? みたいな話を真剣にしてみたり(笑)。自宅でも母親に「もし私が死んで、突然おじさんになって帰ってきたら、どうする?」と試しに聞いてみたら、母は「えー嫌だな」と苦笑いしたあとに「でもまぁ、仕方ないから信じてご飯を作るかなぁ」とサラリと答えて……思わず涙が出まして。私にも、願わくばもう一度会いたいと思う亡くなった友人や親戚がいますが、もし彼らが姿かたちを変えて帰ってきたら、気づける自分でありたいなと。親子や元夫婦、大切に思う気持ちが強ければ強いほど、信じたい気持ちも背中を押して、不思議な状況も受け入れられるのではないかと思い、そんな“人と人との想い”を丁寧に描いていけば、ファンタジーな設定もきっと嘘にならないだろうと思って作ってまいりました。

――リアリティという意味では、松坂さんと井浦さんのお芝居も素晴らしいなと感じました。どういった経緯でこの二人をキャスティングされたのでしょうか?

貴島:松坂さんはいつか一緒にお仕事をしたい俳優さんで、いくつか企画を手に熱烈オファーをさせていただいたところ、この作品を選んでいただき、ご一緒することになりました。松坂さんはこれまで様々な役柄を演じてこられたと思うのですが、どうしようもなくダメなんだけれど世界一優しくて、応援したくなるような、温かみのある主人公を演じて頂きたいと思っていました。松坂さんの相手役にあたる“おじさんヒロイン”のキャスティングのハードルはとても高く、悩んでいた頃に『にじいろカルテ』(2021年1月クールテレビ朝日放送)の現場で井浦新さんに出会いました。井浦さんは今までの作品を観て、クールで物静かなイメージがあったのですが、クランクインの日にとてもお茶目な方だと知り、大きな身体でぴょんぴょん跳ねている姿を見た時にふと「この方にオジ巴を演じて頂いたら、視聴者は自然と彼を愛してしまうのでは」と感じて、すぐにオファーをしてしまいました。

――井浦さんの反応はいかがでしたか?

貴島:2クール連続で同じPと仕事をするのは初めてです、と。けれど「挑戦したいです」と温かいお言葉をいただきました。しばらくしてから企画書を熟読されたのか、時間をおいて「難しい役ですね」と(笑)。約1年近くご一緒させていただきましたが、俳優さんとしても、仲間としても、とても心強い方です。

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