井浦新が麻生久美子に見えてくる 『あのキス』荒唐無稽な設定を成立させた脚本の凄み

井浦新が麻生久美子に見えてくる 『あのキス』荒唐無稽な設定を成立させた脚本の凄み

 『あのときキスしておけば』(テレビ朝日系/以下『あのキス』)が始まる前は正直なところイロモノなのではないだろうかと予想していた。先入観は時としていいほうに裏切られることを『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)で学習したはずだったが、だからこそ余計に二匹目のドジョウはなかなかないという先入観を抱いてしまったのである。プロデューサーが『おっさんずラブ』の貴島彩理だっただけになおさら。でも同じプロデューサーによって結果的に再びいいふうに裏切られた。どれほど荒唐無稽な設定でも人間の本質を描いて感動を生み出すことはできる。『あのキス』の第6話を観た時点でそう感じた。

 人気漫画家・蟹釜ジョーこと唯月巴(麻生久美子)が飛行機事故で亡くなり、魂が隣に座っていた田中マサオ(井浦新)の肉体に乗り移った。亡くなる前にかすかに恋愛感情が芽生えていた巴の漫画の熱狂的なファン・桃地(松坂桃李)は田中マサオの姿をした巴(オジ巴)に戸惑いながらも、次第に心を通わせていく。そこへ元夫で蟹釜の担当編集者・高見沢(三浦翔平)が現れ、オジ巴に躊躇なく積極的に愛情アピール、一歩踏み出せないでいる桃地を追い越していくかのように見えたが、巴にはもう桃地しか見えない。

 第6話は「衝撃のラストを見逃すな! 元夫に奪われたキスの行方」という番組表についたコピーの通り、最高に盛り上がった。オジ巴が高見沢にキスを迫られている瞬間を桃地が目撃したことをきっかけに話は急展開。巴は桃地に交際を申し込み、編集部では亡くなった蟹釜ジョーが人気漫画『SEIKAの空』のプロットを最終回まで残していたのでそれを弟子の蟹釜ジョニーが描くと打ち出し、人気漫画家の急逝のピンチを逃れる。

 田中マサオには妻・帆奈美(MEGUMI)と子・遊太郎(窪塚愛流)がいて、それも悩みの種ではあったが、遊太郎も『SEIKAの空』のファンであったことで丸く収まる。大黒柱を失った田中家の経済の責任をすべてもつと宣言する巴がかっこいい。

 何もかもうまくいくかと思ったが、巴の入れ替わりのタイミリミットが近づいてきて……。これからの最終章は、巴はどうなるのか。その時、桃地は……というクライマックスへの興味のみ。どんな結果になろうと素直に終わりを楽しめそうである。これだけキャラクターに愛着ができたのでラストを見届けたい気持ちしかない。シンプルにそう思わせる物語の強度たるや。

 ドラマの成功要因の第一は井浦新で間違いはないだろう。巴の魂が入れ替わった田中マサオを演じる井浦が器用に巴/麻生久美子の身振り手振り口振りを再現していてそれがまず面白く、前半を牽引した。第6話まで来ると、巴のみならず、編集長の口ぶりまで真似て、憑依型とは井浦新のことを言うのであって、おいそれとほかの俳優を憑依型とは言えない、そんな気持ちになるほどだった。田中マサオに戻った瞬間とまた巴になった瞬間を軽やかに切り替えるところも(編集の力も含め)鮮やかだった。毎回、ここぞという時は巴は麻生久美子がイメージとして演じるが、本人と比べてもなお似ているのだからすごい。

 大先生で愛することにてらいのない巴に振り回される桃地を演じる松坂桃李の不器用さも素朴でいいし、高見沢役の三浦翔平がツーブロックの髪型をはじめとしていけ好かない二枚目を徹底的に演じきっているのも面白い。三浦はすっかり一皮向けた感じがする。松坂にしても三浦にしても結婚して自由になったような印象を受ける。未婚の時よりも女性受けを考えずリミッターをはずせるからこそ、芝居が面白くなる。井浦はハナっからリミッターがない感じの俳優であるし、オジ巴を演じることを楽しんでいるようにすら見える。

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