『まめ夫』でも真価を発揮したオダギリジョー 過去演じてきた抗えない“ズルい役”を辿る
ついに最終回を迎える、『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系、以下『まめ夫』)。放送が始まってから、その内容の丁寧さと細かさに終始画面から目が離せない作品として注目されてきた。特に、とわ子の三人の元夫たち、岡田将生演じる中村慎森、松田龍平演じる田中八作、角田晃広演じる佐藤鹿太郎のキャラクターの魅力が人気要因でもあるが、中でも彗星のごとく後半から登場したオダギリジョー演じる小鳥遊大史がズルすぎる。
ズルい、というのは小鳥遊さんが小鳥遊さんである以前に、それを演じているのがオダギリジョーという時点で、すでにそうだ。子供の頃に夢中になって観ていた『仮面ライダークウガ』(テレビ朝日系)では、“かっこいいお兄さん”として主役・五代雄介を演じていた彼が、自分も大人になった頃にはもう“かっこいいお兄さん”という、一筋縄ではいかない俳優になっていたことに気づいてしまった。これが大人になるということ……。数々の作品で受賞歴を持つ実力派俳優として、常に魅力的な役柄を演じてきた彼は、ドラマに登場するごとにTwitterを沸かせ、数多くのファンを狂わせてきた。そこで小鳥遊さんにも通じる、オダギリジョーの“ズル役”の歴史を振り返ってみたいと思う。
隙まみれな感じがズルい
小鳥遊さんについて考える時、最初に目につくのはその隙の多さだ。いつも、どこで買ったのかわからない(けれどたぶんハイブランド)のビッグシルエットのシャツとパンツをだらしなく着ながら、みんなと動きが合わずに、それでも気にする様子なくラジオ体操に参加している。パッと見ただけで日中何をしている人なのか想像もできないのに、会釈をするとヘラッと笑って簡単に話せる気軽さ。その隙の多さに我々が気づいた時、私たちはもうその隙間に囚われてしまっている。
オダギリジョーはこれまで多くの役を演じてきたが、その中でも人気の高いキャラクターをみると、小鳥遊さんのように隙が多い。特に三木聡監督とタッグを組んだ作品で、ゆるくて掴みどころのない魅力が発揮されているように思う。『時効警察』(テレビ朝日系)の霧山修一朗がまさにそれ。単純に“変わっている”、それでも捜査の腕前はピカイチ。それでいて女心には疎く、恋愛にはさほど興味を示さない……麻生久美子演じる三日月しずかから常に猛アタックをされるも、いつもなんとなくかわすという姿勢が逆にもっとモテてしまうという、『まめ夫』の言葉を借りるとしたらオーガニックホストのような存在だ。『熱海の捜査官』(テレビ朝日系)で演じた星崎剣三にも似た雰囲気を感じる。また、映画では『イン・ザ・プール』で“勃ちっぱなし”の症状に悩み、振り回される田口哲也を、『転々』では借金をチャラにする代わりに東京散歩に付き合わされる主人公・竹村文哉を演じた。とぼけながら自分が周りを振り回したと思ったら、逆に巻き込まれて誰かに振り回されて情けない表情でいるオダギリジョー。三木聡作品には、そんな彼の魅力が溢れている。
巻き込まれ系といえば、土屋太鳳主演ドラマ『チア☆ダン』(TBS系)でも気弱な新人教師・漆戸太郎として、気がつけばチアダンス部の顧問になっていた。隙が多いから巻き込まれてしまう、しかも本人がそのまま流されてしまうので、もう隙まみれ。しかし、その隙のある純朴さとは別に、どこかに暗さがあったり闇が見え隠れしていたり、シンプルに“クズ男”だと、さらにズルいオダギリジョー、“ズルジョー”の出来上がりだ。
暗かったり、“クズ男”だったり でも嫌いになれない魅力的なキャラ
『まめ夫』第7話のラストで、しろくまハウジングの買収を目論む外資系ファンドの責任者として突然彼女の目の前に現れ、その後高圧的な態度で社長の座を引きずり下ろそうとする小鳥遊。SNS上ではこの急激な態度の変化に戸惑い、「サイコ」「やばいやつ」などの声があがって“クズ男”認定をされかけてしまった。しかし、それでも魅力的に感じてしまうのだから、オダギリジョーの演じる“クズ男”はずるい。
例えば『湯を沸かすほどの熱い愛』では、パチンコ屋に行くと言って蒸発し、宮沢りえ演じる主人公の双葉が末期癌と診断されたことで探され、浮気相手の連れ子をしれっと連れて一家に戻ってくる父・一浩を好演。この役柄も終始酷いというか、シンプルにクズなのに物語を追うにつれて彼の持つその不器用な愛が見えてくるのがズルい。『南瓜とマヨネーズ』では、臼田あさ美演じる主人公ツチダの昔の男、ハギオを演じた。このハギオという男もナチュラルボーンクズで、自分のことを好きだった女に対し「俺のことを心底好きそうにしていたお前が大嫌いだった」「でも今の(他の男といて余裕がありそうな)お前は好き」というとんでもないことをニコニコしながら、話してくる。しかし、ツチダはすでに過去にハギオにコテンパンに打ちのめされている。打ちのめされたから拒絶するのではなく、だからこそもう感覚が狂っていて、彼女の耳には最後の「好き」しか届いていない。絶妙な具合の言葉使いで女を狂わせる、この世で一番タチの悪いタイプの人物なので出会い次第、全速力で逃げ出さなきゃいけないのに自分の力で彼の元に向かってしまう、そんな男を演じるにあたってオダギリジョーの右に出る者はいない。