『まめ夫』でも真価を発揮したオダギリジョー 過去演じてきた抗えない“ズルい役”を辿る
クズだけど、やる時にはやるというのもズルいが過ぎる。池田エライザ主演『ルームロンダリング』では、一見ヤクザまがいな商売をする主人公の叔父・雷土悟郎を演じているが、悟郎も姪っ子や家族のことだけは特に気をかけていて、物語が進むに連れて明かされていく本当の彼の持つ優しさのギャップ、頼れるオジサンという非常に良い役柄だった。
そういうオンオフというか仕事の時はやり手、というのも小鳥遊さんのかっこいいところだが、そこで見え隠れする闇も人を惹きつけてしまうポイントでもある。第8話では謎に包まれていた小鳥遊さんの過去が明かされ、ヤングケアラーとして失った時間が多く、それゆえに人に心を開くことを難しく感じること、自分を拾ってくれた恩人に盲信的になるという彼の抱える闇がそこにはあった。
オダギリジョーは『オーバー・フェンス』ではトラウマを抱えて何もかも無気力になっていた主人公・白岩義男を演じ、その隙と闇、少しの狂気に惹きつけられるかのように蒼井優演じる田村聡が彼に夢中になった。また、BUMP OF CHICKENの楽曲から着想を得たドラマ『天体観測』(フジテレビ系)では在学中は誰よりも優秀で自由だったのに、大人になると詐欺まがいの仕事をして闇社会に足を突っ込んだ木崎タケシという男を演じた。周りに毒を吐き、闇を抱える嫌われ役に徹していた彼だが、実は親の残していた借金を返すために仕方なくやっていたことで、後に友達の借金を肩代わりしたり、友人に勇気づけられて汚れ仕事を断ったり、やっぱり良い奴だったというズルかっこいいキャラクターだった。もう何をしてもオダギリジョーが演じるだけでズルいようになってきているが、本当にズルいオダギリジョー……“ズルジョー”は、決まってとある場所に現れる。
職場に出没するオダギリジョーは高確率で“ズルジョー”
そう、“ズルジョー”は職場に現れる。そのズルさの幅も広い。基本的には「頼れる上司」など目上の立場にいるイメージが強く、『重版出来!』(TBS系)がまさにそれだ。『バイブス』編集部に配属された新人・黒沢心(黒木華)に時には厳しい言葉で指導をするが、常に彼女の奮闘を見守っており、上司としてフォローすることも欠かさない。基本的に感情の波が静かなのに、実のところ尊敬できる人の教えを守ったり、担当作家の信頼を取り戻すために死に物狂いで街を走ったり、アツい部分を隠し持つ大人らしい人間味も素敵だ。この冷ややかさとアツさのギャップは『舟を編む』でも発揮されている。一方で『花束みたいな恋をした』では、同じく仕事のできる上司(社長)加持役として登場しているにもかかわらず、より距離間が近いという、違う文脈のズルさがある。絹(有村架純)と会社関係の飲みの場でも膝枕をしたり、その後“ラーメンを食べに”誘ったり、「彼氏と別れちゃえば?」なんて悪魔の囁きのようなことをしてくる。仕事の面以外で、異性的なちょっかいを出してくるオダギリジョーは、“ズルジョー”以外の何者でもないだろう。
しかし、職場に出現する破壊力抜群、究極の“ズルジョー”は『午前3時の無法地帯』の多賀谷さんである。同じ会社の人間というリスクもないけど毎日顔を合わせようと思えば合わせられる、同ビルの人という距離感というのがすでにズルい。しかも普通、その距離感で仲良くなるのも難しいのに、例の隙を発揮して早々に主人公・ももこ(本田翼)と仲良くなる。そして決定的な言葉は言わないが、彼女からの好意をつき離すそぶりもなく、ももこに彼氏がいると知ったら「おじさん振られちゃったな〜」と真意を問いたくなる言葉を発する。結果両思いになったあとも、主人公がデート中に仕事に戻らなくてはいけなくなった時も「一緒に行くよ、終わるの待ってる」と彼女の事情を最優先するあたりも、仏のような存在であり、まさに忙殺される日々に突如現れたオアシスのようなものなのである。
小鳥遊さんも、とわ子にとってのオアシスだった。会社で会う時は敵だが、プライベートは関係なく接していたい。仕事と私情を巻き込まない宣言に、とわ子がそれならそれでと逆に安心する場面もあった。これは、社長として仕事に集中しなくてはならないとわ子が(そしてドラマを観る多くの女性が)求める一種の“理想”ではないだろうか。そして何より、二人きりで会う時の一見隙のある自由さ、そこに垣間見える闇、そして仕事と両立しながら良い距離感で接して“いられそうな”関係。これまで挙げてきた“ズルジョー”全ての要素を兼ね備えたこの男がズルいのは当たり前で。ある意味、オダギリジョーの良さ全部詰め合わせパッケージのようなキャラクターなのである。だから、私たちは小鳥遊さんに狂ったのだ。残念ながら仕事との両立の点というより、とわ子が彼女自身でいるために2人は別れてしまったが、大いに物語に盛り上がりを見せ視聴者を熱狂させた彼の存在が、とわ子にとっても、本ドラマにとっても肝になっていたことには変わりない。
■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードなミックス。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆する。Instagram/Twitter
■放送情報
『大豆田とわ子と三人の元夫』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週火曜21:00〜放送
出演:松たか子、岡田将生、角田晃広(東京03)、松田龍平、市川実日子、高橋メアリージュン、弓削智久、平埜生成、穂志もえか、楽駆、豊嶋花、石橋静河、石橋菜津美、瀧内公美、近藤芳正、岩松了ほか
脚本:坂元裕二
演出:中江和仁、池田千尋、瀧悠輔
プロデュース:佐野亜裕美
音楽:坂東祐大
制作協力:カズモ
制作著作:カンテレ
(c)カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/mameo/
公式Twitter:@omamedatowako