日本のユーザーにも大きな影響? AmazonのMGM買収などハリウッドで相次ぐスタジオ統合の行方

ハリウッドで相次ぐスタジオ統合

 アマゾンによるMGM買収も、ワーナーメディアとディスカバリーの合併も、海の向こうで起きている遠いところの話ではない。近い将来、日本のユーザーにとっても大きな変化が訪れることになる。アマゾンとMGMの合併は、Amazonプライム会員向けに配信されているライブラリに大きな影響を与えることになる。MGM映画は前述の『007』、『ロッキー』といった誰でも知っているフランチャイズから、今年下半期はジェニファー・ハドソンがアレサ・フランクリンに扮する伝記映画『Respect(原題)』(8月13日北米公開予定)、アニメ作品の『アダムス・ファミリー』第2弾(10月1日北米公開予定)、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(10月8日北米公開予定)、リドリー・スコット監督によるレディー・ガガとアダム・ドライバー共演の『House of Gucci(原題)』(11月26日北米公開予定)、ブラッドリー・クーパー主演、ポール・トーマス・アンダーソン監督のタイトル未定作品(11月26日北米公開予定)、ジョー・ライト監督作でピーター・ディンクレイジがシラノ・ド・ベルジュラックを演じるミュージカル映画『Cyrano(原題)』(12月24日)などの話題作が控えている。これらの公開日が決まっている作品はすでにマーケティング・配給宣伝予算が割かれ動いているため劇場公開は死守されるのではないかと見られている。合併が正式決定するとMGM作品の配給戦略はアマゾンが取り仕切り、『007』の過去作や『ロッキー』シリーズ、MGMのテレビ番組の『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』や『ファーゴ』、リアリティTVの『The Real Housewives of Beverly Hills(原題)』などがごっそりAmazonプライムのライブラリに追加されることになるだろう。また、ベゾスCEOが株主総会で述べたように、今回の買収目的は目先の作品を手に入れることではなく、この先アマゾン・スタジオがMGMのIPを再構築しコンテンツ力を高めるビジネスプランにある。現在のアマゾンの収益3本柱のプライム、マーケットプレイス、そしてAWS(クラウド・コンピューティング・サービス)に次ぐ4本目の柱としてアマゾン・スタジオを位置付ける構えなのだ。

『Respect(原題)』Photo credit: Quantrell D. Colbert (c)2021 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.
『House of Gucci(原題)』(c)2021 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.

 一方のワーナーメディアとディスカバリーの統合は、スタンキーCEOの「海外市場対策」宣言が推理の鍵となる。HBO Maxは現在のところ北米のみのサービスで会員数およそ8,830万世帯。6月下旬にはラテンアメリカとカリブ海の39カ国でサービスを開始し、北欧、中欧、スペイン、ポルトガルのHBOブランドのストリーミングサービスは、今年後半にHBO Maxにアップグレードされるという。フランスのHBOは現地ストリーミング企業との契約を来年にも終了し、単独のサービスとして開始される予定。アジア諸国でもHBOが有線チャンネルで放送されているが、現在のところサービス開始の報道はない。日本では今年3月よりU-NEXTで主にHBO製作作品が配信されている。今年1月にアメリカでスタートしたディスカバリーの配信サービス、ディスカバリープラスは会員数約1,500万人で、昨年中に英国、ポーランド、東欧でサービスを開始し、今年はインド、日本、スペイン、イタリア、北欧、オランダ、中東、トルコ、サウジアラビアでもサービスを開始する。今後は中南米、ブラジル、日本とインド以外のアジア地域でのサービス開始を計画している。日本におけるディスカバリーの配信サービスは、今年1月まで「Dplay」が運営されていたが、本国でディスカバリープラスが配信開始したタイミングで終了し、2021年中にディスカバリープラスが立ち上がる予定と報じられている。この買収劇の白眉が、すでにサービスを開始しているディスカバリーの海外市場戦略であることは間違いなく、HBO Maxを複合することで一気に海外市場を取りに行くことができる。

 企業間の大型買収案件には、反トラスト法(米独立禁止法)に抵触する可能性を当局が調査するため時間を要する。どちらの買収合併も早くても2022年までかかるだろうと見られている。アマゾンやワーナーメディアの買収劇が報じられたからといって、明日明後日にすぐに何かが変わるわけではないが、ハッと気付いた時には大きなパラダイムシフトが起きていることだろう。そして、この買収戦争は始まったばかり。ハリウッドのスタジオ、製作会社とストリーミングサービスの関係から目が離せない。

■平井伊都子
ロサンゼルス在住映画ライター。在ロサンゼルス総領事館にて3年間の任期付外交官を経て、映画業界に復帰。

■公開情報
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』
2021年公開予定
監督:キャリー・フクナガ
製作:バーバラ・ブロッコリ、マイケル・G・ウィルソン 
脚本:ニール・パーヴィス、ロバート・ウェイド、スコット・バーンズ、キャリー・フクナガ、フィービー・ウォーラー=ブリッジ
出演:ダニエル・クレイグ、レイフ・ファインズ、ナオミ・ハリス、レア・セドゥ、ベン・ウィショー、ジェフリー・ライト、アナ・デ・アルマス、ラッシャーナ・リンチ、ビリー・マグヌッセン、ラミ・マレック
配給:東宝東和
(c)Danjaq, LLC and Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc.All Rights Reserved.
公式Facebook:www.facebook.com/JamesBond007
公式Twitter:https://twitter.com/007

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