窮地に立たされたゴールデングローブ賞 数々の暴露やボイコット、批判などを時系列で解説

ゴールデングローブ賞の紆余曲折を解説

 今年2月にロサンゼルス・タイムズがスクープしたハリウッド外国人記者協会(HFPA)の内情記事が波紋を呼び、5月10日にはHFPAが主催するゴールデングローブ賞をテレビ中継しているNBCが「2022年度の授賞式の放送中止」を言い渡し、窮地に立たされている。その間に起きた数々の暴露、ボイコット、批判などをまとめてみる。

 そもそものきっかけは、ロサンゼルス・タイムズのスクープより半年前、2020年8月にノルウェー人ジャーナリスト、クリスティ・フラー氏がロサンゼルス連邦裁判所に提出した独占禁止法違反訴状に遡る(参考:ゴールデングローブ賞を決める87名の外国人記者協会 老舗組織に突きつけられた独占禁止法違反訴状)。

 非営利団体であるHFPAの活動趣旨は、「南カリフォルニアを拠点に活動する国際的な約90名のジャーナリストが会員となり、世界中の様々な出版物を通じて、映画やテレビに関する情報を世界に発信。メンバーは、年間300以上の取材や試写に参加し、毎年1月に開催されるゴールデングローブ賞の共同制作を行う」こと。100名未満の小さな組織がハリウッドでここまで力を持ったのは、毎年アカデミー賞ノミネーション投票締め切り直前に行われ、NBC系列で全国にテレビ中継されるゴールデングローブ賞の存在が大きい。

 ロサンゼルスで映画関連の取材を行っていたフラー氏は、HFPAへの新規入会を志願したところ、彼女が執筆活動を行っているスカンジナビア諸国出身の現役メンバーより申請を却下された。なお、出願には現役メンバー2名による推薦が必須なのだという。彼女と同様に市場での競合を理由に申請を却下された同業者の声を集め、賛同者を得たフラー氏は「HFPAがハリウッドでの取材機会を奪うことは、独占禁止法違反である」と裁判を起こし、各種媒体でも取り上げられた。11月に出た判決で、彼女の訴状は棄却されている。

 12月には、韓国系アメリカ人のリー・アイザック・チョン監督作品『ミナリ』が、劇中使用言語の半分以上が韓国語という理由で、ゴールデングローブ賞で外国語映画賞にカテゴライズされるという騒ぎがあった。『ミナリ』はアメリカの製作会社A24と、ブラッド・ピットが率いる製作会社プランBが製作したアメリカ資本映画だというのに(参考:移民を描いた米国資本映画『ミナリ』は外国語映画 ゴールデングローブ賞の規定にハリウッド憤慨)。

 2021年度のゴールデングローブ賞授賞式の2月28日を1週間後に控えた2月21日、ロサンゼルス・タイムズは「HFPAの自己欺瞞と倫理観の欠如をメンバーが告発」と題した記事を掲載(参考:Golden Globes voters in tumult: Members accuse Hollywood Foreign Press Assn. of self-dealing, ethical lapses|Los Angeles Times)。匿名のメンバーによる暴露で、非営利団体である同協会のずさんな会計管理、スタジオやプロデューサーからの便宜供与と賄賂授受、現役記者ではない高齢会員が幅を利かせているなどの内情が明かされた。その中で最も世間の耳目を集めたのが、黒人会員が一人もいない偏った人種構成だった。記事を受け、映画業界を中心に「Time’s Up」(時間切れ)と名付けられたキャンペーンが始まり、多くのタレント、クリエイターがSNSで支持を表明した。

 28日のゴールデングローブ賞授賞式で壇上に上がったHFPA会長らは組織改革を約束。パンデミック下でタレントが一切会場を訪れずヴァーチャルで行われた授賞式は、ゴールデングローブ賞がテレビ放送を開始して以来最も低い視聴率となった。平均視聴者数は約540万人、2020年と比較しても60%以上の減少となっている。

 その後HFPAは、南カリフォルニア大学教授で人種・公正センターの創設者であるショーン・ハーパー博士を戦略的ダイバーシティ・アドバイザーとして起用、「協会の規約、文化、入会資格要件の監査と見直しを行い、排除主義的な慣行を防ぎ、より多様な会員を獲得する」、「会員向けの反人種主義および無意識下の偏見に関する一連のトレーニングを計画し、実施する」ことを掲げた。

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