窮地に立たされたゴールデングローブ賞 数々の暴露やボイコット、批判などを時系列で解説

ゴールデングローブ賞の紆余曲折を解説

 一方、なかなか進まない構造改革にしびれを切らしたハリウッド業界関係者も行動を開始。ハリウッドのタレントのプロモーションを請け負う100社以上のPR会社が、改革がなされなければクライアントへの取材依頼を拒否するという公開書簡に署名。これにより、HFPAは取材活動機会を絶たれている。

 改革が進んでいるはずの4月18日、第2のスキャンダルが発覚した。HFPAの現役メンバーで8期目の会長を務めたフィリップ・バーク氏が、「ブラック・ライヴズ・マターを“人種差別的なヘイト・ムーブメント”と決めつけ、BLM共同創設者のパトリス・カロース氏を“訓練されたマルクス主義者”と呼ぶメールを全会員に送付していたことが明るみに出た。これを受けたNBC(ゴールデングローブ賞の放映権を年間6000万ドル、8カ年契約を結んでいる)は、元会長を痛烈に批判し彼の即刻追放を求めた。4月20日、バーク氏のHFPA除名処分が報告されている。また同日、HFPAがこの危機を乗り越えるために3月に採用した危機管理コミュニケーション会社スミス&カンパニーとダイバーシティ・コンサルタントが「アドバイスに耳を傾けず、具体的な行動を約束しない組織に不満を募らせている。この問題は根深く、同協会は迷走中だ」として辞任。

 5月に入り、HFPAは「組織内の黒人会員や有色人種の数を増やすとともに、有権者が受け取ることのできる贈り物や協会内での作業に対する報酬の制限を提案する」という計画を発表。2021年度中に20名の新規会員の入会を促し、特に黒人会員を増やすことを約束した。

 だが、ハリウッドのスタジオやストリーミング企業はHFPAの改革案に納得せず、数社が是正を求める公開書簡を提出している。NetflixのCOO(コンテンツ最高責任者)で共同CEOのテッド・サランドス氏は、「提案された解決法では根本的な解決にはならない。より有意義な変更がなされるまで、当社はHFPAとの活動を停止する」と宣言。マーク・ラファロ、スカーレット・ヨハンソンらタレントも声をあげ、トム・クルーズは過去に授賞したゴールデングローブ賞のトロフィーを返却している。また、ワーナー・ブラザース映画やHBO Maxの親会社ワーナーメディアの幹部も、「(改革案は)我々の懸念を十分に解決するものではなく、HFPAはこれらの問題を対処すべき緊急性を理解していない」と糾弾。公開された書簡の内容は辛辣で、「(HFPAで)黒人クリエイターの記者会見を開催することはとても困難でした。これらの作品は、HFPAのノミネートや受賞プロセスで評価されないことが多々あり、さらにタレントが人種差別的、性差別的、同性愛者差別的な質問を受ける記者会見に耐えてきました。あまりにも長い間、特典や特別な便宜を求める要求や、プロ意識に欠けた要求がなされてきました。私たちは、業界としてこのような行為に不満を抱きながらも、これまでほぼ黙認してきたことを残念に思います」と書いている。そして、今まで議題に挙がっていなかった問題も掲げた。「HFPAには、すべてのタレントやスタッフに対する不要な身体的接触を一切容認せず、具体的かつ強制的な行動規範を導入していただきたい」。ここまであけすけに協会を批判した書簡からは、ハリウッドの賞レースが引き起こした歪んだプロモーション活動の実情が浮かび上がってくる。

 NBCの放送中止勧告を受け、HFPAは現在も改革案の見直しと早急な実施を求められている。HFPA会員による歪んだ思想や配慮のない発言、人種差別的な選民意識は到底看過できるものではない。だが、この小さな組織をハリウッドのカルテルに育て上げてしまった背景には、ゴールデングローブ賞の冠欲しさに要求をのんできたスタジオやプロモーション会社の責任もあるのではないだろうか? 今回のことで手のひらを返したようにハリウッド外国人記者協会を批判しているスタジオや賞レースのパブリシスト、彼らの意のままに動いてきたタレントやクリエーターも見識を改める必要がある。ゴールデングローブ賞だけでなく、アカデミー賞、グラミー賞、すべての授賞式のテレビ放映視聴率を見てもわかるように、世間はとっくに賞レースへの興味なんて失っているのだから。

■平井伊都子
ロサンゼルス在住映画ライター。在ロサンゼルス総領事館にて3年間の任期付外交官を経て、映画業界に復帰。

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