『ヒロアカ』TVアニメ第5期は物語設定の上手さが光る 「全編、修行編」の特異性と面白さ

 ここまで述べてきたように、『ヒロアカ』は愚直なまでに各キャラクターが一歩ずつ理想の姿へと歩んでいく姿(これは何もヒーローだけでなく、ヴィランにおいてもそう)を見つめていく。堀越氏のこだわりである「緑谷が戦いの中で負った傷を治さない」という部分や、自身が「漫画を描くときに心がけていること」として挙げている「泥臭く足掻きもがく姿のカッコ悪さ・かっこよさ。立ち上がること」(書籍『描きたい!!を信じる 少年ジャンプがどうしても伝えたいマンガの描き方』より)にも、通じる部分があろう。もっといえば、『ヒロアカ』の骨子となった2008年の読み切り『僕のヒーロー』からその意識は一貫している。

 そのような信念があればこそ、堀越氏は『ヒロアカ』において、少年漫画の宿命ともいえる「修行編」への鮮やかなアプローチを生み出すに至った。「修行編」というのは、バトル漫画等々における必須のエピソードであり、主人公がさらなるパワーを得るために努力を重ねる姿を描くもの。ただ、時代の移り変わりにより、読者にウケなくなってきたという流れが起こった(その理由は、物語が進まないためといったものが挙げられる)。そこで「修行編をいかにコンパクトにまとめるか」という発想が必要となり、多くの作品が創意工夫を凝らしてきた。

 たとえば同じジャンプ漫画でいえば、『鬼滅の刃』は序盤の修行編をもっと短くするという案も編集者の片山達彦氏からは出たという(参照:【インタビュー】『鬼滅の刃』大ブレイクの陰にあった、絶え間ない努力――初代担当編集が明かす誕生秘話 - ライブドアニュース)。同じ片山氏が編集担当を務めた『呪術廻戦』は、彼の「修行編はガッツリやるか全くやらないのが良い」とのアドバイスを受け、作者の芥見下々氏は後者を選択(『呪術廻戦』公式ファンブックより)。なるたけコンパクトにまとめつつ「映画観賞が修行になる」という斬新なアイデアを持ち込んだ。片山氏の担当作品だと、ガッツリやるパターンは『ブラッククローバー』だろうか。こちらは「強敵が出現→パワーアップの必要が生じて修行編突入」という王道展開を丁寧に踏襲している。

 そうした中で、『ヒロアカ』はどういったポジションなのか? 端的に表すならば「全編、修行編」だ。ここに、本作の特異性と面白さがある。先にちらりと述べたように、『ヒロアカ』では「いまできることとできないこと」が明確に示される。その最たる例は、オールマイトから個性を授かった緑谷の「使用可能なパーセンテージ」だ。

 オールマイトから受け継いだワン・フォー・オールは、100%の力で使用すると力に肉体が耐えきれず、骨が折れてしまう。初期のころは、緑谷が戦いのたびに身体をバキバキに壊していた。その後、一点集中ではなく全身に常時力を発動させるというスタイル(フルカウル)を編み出したが、当初は5%が限界。それが8%、15%と緑谷の鍛錬によって上限が引き上げられていくつくりは、読者にとってもわかりやすく「いまできることとできないこと」が把握できた。

 そしてまた、「プロヒーローを目指す学生たちの物語」にしたことで、修行編の必然性を付加。第5期の「合同戦闘訓練」のように、授業のカリキュラムに修行編チックな内容を織り込むことで、物語を先に進ませながらも修行シーンを違和感なく描いてきた。ここまで述べてきたように、各キャラクターが失敗を省みて特訓を積み、次の機会で克服する、といった構成も上手い。

 極論を言うと、『ヒロアカ』においては「ここからここが修行編」といった概念はなく、緑谷をはじめとして、プロヒーロー候補生は絶えずトレーニングに励み、ヒーロー学をたたき込み、ヒーローたる資質を得ようと必死に取り組んでいる。初期に登場する八百万のセリフ「常に下学上達!」、緑谷の「他の人より何倍も頑張らないとダメなんだ!」等々、努力一筋のキャラクターが多いのも、大きな特徴といえよう。TVアニメ第5期の中でも、試合終了直後にA組とB組のメンバーが反省会を開き、また修行に励もうとする姿が描かれている。

 時代の流れを意識しつつも、第1話のセリフ「これは僕が最高のヒーローになるまでの物語だ」(アニメではシーズン1第2話『ヒーローの条件』で登場)に代表されるように「夢に向かって努力する」をきっちりと描き、少年ジャンプを背負う新・王道漫画として独自の地位を築いてきた『ヒロアカ』。修行編に真っ向から挑み、新たな定理を確立した本作がいま、国内外の幅広い層から支持されている事実――。この漫画は、「修行編はウケない」という“運命”を「好きな形にねじ曲げた」英雄的存在でもあるのだ。「未来なんて何かせなかわらんやろ!」という麗日お茶子の名ゼリフと重ね合わせつつ、この先の歩みを追いかけてゆきたい。

■SYO
映画やドラマ、アニメを中心としたエンタメ系ライター/編集者。東京学芸大学卒業後、複数のメディアでの勤務を経て、現在に至る。Twitter

■放送情報
『僕のヒーローアカデミア』TVアニメ第5期
読売テレビ・日本テレビ系にて、毎週土曜17:30〜放送
※一部地域を除く
原作:堀越耕平(集英社『週刊少年ジャンプ』連載)
総監督:長崎健司
監督:向井雅浩
シリーズ構成・脚本:黒田洋介
キャラクターデザイン:馬越嘉彦・小田嶋瞳
音楽:林ゆうき
アニメーション制作:ボンズ
声の出演:山下大輝、岡本信彦、佐倉綾音、石川界人、梶裕貴、増田俊樹、悠木碧、井上麻里奈、細谷佳正、天崎滉平、小笠原亜紀、沖野晃司、松岡禎丞、真坂美帆、羽多野渉、諏訪部順一、三宅健太 ※天崎滉平の崎は「たつさき」が正式表記
(c)堀越耕平/集英社・僕のヒーローアカデミア製作委員会
公式サイト:http://heroaca.com/
公式twitter:http://twitter.com/heroaca_anime
公式Instagram:http://instagram.com/heroaca_insta

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