松たか子と松田龍平、緊張感のある会話劇 『大豆田とわ子と三人の元夫』は不穏な展開へ
火曜21時からカンテレ・フジテレビ系で放送されているドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(以下、『まめ夫』)は、建設会社「しろくまハウジング」の社長・大豆田とわ子(松たか子)と三人の元夫の物語だ。
この第5話では、誕生日が近づく中、仕事で知り合ったイベント会社の社長・門谷(谷中敦)にプロポーズされるとわ子の姿が描かれる。
とわ子の4度目の結婚を、元夫たちが阻止するのか? と思わせる展開は、当初は上品なラブコメといった印象だったが、門谷の正体が明らかになると、物語は不穏な展開へと変わっていく。
前回は、最初の夫の田中八作(松田龍平)が、とわ子の親友・綿来かごめ(市川実日子)のことを好きでありながら、とわ子と結婚したのではないか? と匂わされていたが、ある出来事をきっかけに、八作の片思いの相手がかごめであることをとわ子は気づいてしまう。
元夫三人でとわ子の家を訪れた際に、八作はとわ子にサプライズプレゼントを渡す。プレゼントは二足の靴下。もう一足は娘の唄(豊嶋花)へのものだと思うとわ子。だが、視聴者は、かごめの靴下に穴が空いているのを八作が見ていたことを知っているので、八作が、とわ子を経由してかごめに靴下を渡そうとしたのではないかと、想像してしまう。
その後、八作ととわ子が離婚した時のことを二人が延々と話す場面が登場するのだが、その時の緊張感たるや尋常たるものでなく、いつ口論になってもおかしくない。坂元裕二のドラマによく登場する地獄の痴話喧嘩を予感させる一場面だが、この場面では、逆にケンカにならないことこそが、とわ子にとって一番辛かったのだと気付かされる。そして、かごめからの電話がかかってきて、靴下のことを思い出した瞬間に、八作の好きだった相手がかごめだと、とわ子の中でつながるという見事な構成だ。
サプライズパーティーや社長との恋愛といった華やかなエピソードが続くと見せて、一番印象に残るのが「靴下の穴」だという落差が、実に坂元裕二らしい。
『まめ夫』を観ていて思うのは、脚本の構成が他のドラマと全く違うということだ。他のドラマは基本的に一直線に物語が進むため、どの台詞やエピソードが重要で、どれが本編とは関係ない「遊び」なのか、すぐに理解できるのだが、『まめ夫』の場合、一つ一つの台詞やエピソードに異常に力が入っているため、すべてが重要な場面にも思えるし、すべてが無意味な「遊び」にも見えるため、集中して観ないと話の本筋がわからない。
おそらくこれが『カルテット』(TBS系)で獲得した坂元裕二の作劇手法である。つまり重要なポイントを隠すために、単体でも名言として成立するような気の利いた台詞回しやショートエピソードを弾幕のように散りばめているのだ。このややこしい作りのせいで『まめ夫』は一言でこういうお話だと言いにくいドラマとなっているのだが、キラキラとした名台詞の洪水の中に、本当に重要なことがひっそりと配置されており、それが見つかると、後で驚く構成となっている。