こんなファミリーディナーは嫌だ! 『クリシャ』に並ぶ、映画の“地獄的な食卓”を振り返る

こんなファミリーディナーは嫌だ! 『クリシャ』に並ぶ、映画の“地獄的な食卓”を振り返る

思想に対する恐怖心のあまり絶望する食卓『アメリカン・ヒストリーX』

 正直、『ヘレディタリー/継承』も『アメリカン・ビューティー』も、変な話こういったことは割とよくあることで(グラハム家の状況はさておき)家族間での口論が飛び交う食卓というのも決して特別ではないのかもしれない。しかし、それを凌駕する過激性と、色んな意味でここまで恐怖を感じたファミリーディナーを観たことがないという作品が、『アメリカン・ヒストリーX』だ。

『アメリカン・ヒストリーX』DVD

 本作は、エドワート・ノートン演じる一家の長男が黒人に父親を殺されたことから、過激なネオナチとなり、黒人を殺害したことで服役する。弟も彼の服役中に、兄の思想に倒錯しネオナチ化していたわけだが、出所した兄は心を入れ替えていて、弟を止めようとするという物語。兄がネオナチだった過去をモノクロで描き、劇中に何度も過去と現在が行き来するスタイルでストーリーが展開されていく。そして件のディナーシーンというのが、彼がネオナチだった頃のものだ。

 そのディナーシーンでは、ロスで起きた暴動についての議論が行われる。これを兄は社会から阻害された人々の怒りではなく、有色人種の持つ凶暴性によるものだと壮絶なヘイトスピーチを行う。この時彼が言う一言一句が、観るもの全ての心を傷つける、凶器のような憎悪に満ち溢れており、同時にこういった考えを持つ白人至上主義者が実際にいるのだろうなと考えると、その事実に打ちのめされる。しかも、そのディナーの前には彼ら白人が有色人種の働くスーパーで暴動を起こし、彼らに理由なく暴行を加えていたキツいシーンが描かれていた。それなのにそういった白人の犯罪を、全て有色人種のせいにするその狂気に、同席している母や妹、食事に参加していた母のデート相手(ユダヤ人)が反論するも、彼らの意見は暴力と恐怖によってねじ伏せられようとする。

 今、アメリカで起きているブラック・ライブズ・マターの文脈で本シーンを観ると本当に具合が悪くなるが、だからこそ観ておくべき名作である。このディナーに参加した第三者の立場のデート相手は大きなショックを抱えて家を出るが、逆に退席できて本当によかったし、退席しようのない当時の家族のことを考えると、よりやるせなさを感じる絶望的なシーンだ。

 家族の食事とは、いつだって団らんで終われるものではない。むしろ家族だからこそ、傷付けあい、罵り合う。顔を合わせたくなくても、食事は一緒にとらなければならない。それが、ファミリーディナーテーブルの意味するものだ。同じ屋根の下で住んでいても、伝えられなかった感情を相手に伝える唯一の場としての機能。良いも悪いも置いといて、どれだけ怒号が飛び交おうとも、それがその時に彼ら家族間に必要なコミュニケーションであるのは確かだ。どんな形でも相手に思っていることを吐き出すのは、特に身近な相手だからこそ難しいし、だからこそ大事だとも思う。とはいえ、その場に居合わせるのは第三者としては至極しんどいので、是非とも避けたいところである。

■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードなミックス。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆する。苦手な食べ物はアスパラガス。InstagramTwitter

■公開情報
『クリシャ』
ユーロスペースにて限定公開中
監督・脚本・出演:トレイ・エドワード・シュルツ
出演:クリシャ・フェアチャイルド、ロビン・フェアチャイルド、ビル・ワイズ、クリス・ダベック、オリヴィア・グレース・アップルゲイト
製作:ジャスティン・R・チャン、トレイ・エドワード・シュルツ、ウィルソン・スミス、チェイス・ジョリエット
製作総指揮:ジョナサン・R・チャン、JP・カステル
撮影:ドリュー・ダニエルズ
音楽:ブライアン・マコーマー
配給:グッチーズ・フリースクール
アメリカ/83分/カラー/アメリカン・ビスタ、シネマスコープ、スタンダード/2015年

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