北野武や三池崇史への愛が溢れる 『楽園の夜』は90年代日本ヤクザ映画へのラブレター

まごうことなきラブレター映画『楽園の夜』

 そんな北野武と三池崇史への愛を高らかに謳いながら、しかし単なる模倣で終わらないのがパク・フンジョンという男。90年代の日本ヤクザ映画的な雰囲気を漂わせながら、今や韓国映画の代名詞となったカーアクションを盛り込み、『The Witch/魔女』でも見せたキレキレの銃撃戦も見せてくれる。特にクライマックスの爽快感たるや。これだけで元は取れた。主役2人のキャラクター造形も相変わらずお上手である。『新しき世界』も『The Witch/魔女』も、クセ者×真面目人間の関係性で見せていくタイプの作品だった。今回も武闘派ヤクザだけど根っこは優しい真面目人間のテグと、無鉄砲に行動するジョエンの関係性が楽しい。明確な男女の恋愛関係ではなく、運命共同体として、つかず離れずの距離感を保っているのも絶妙だ。

 本作はパク・フンジョン監督から90年代の日本ヤクザ映画へのラブレターだ。しかし懐古だけに終わらず、ちゃんと「今」の韓国映画を背負っている人間としての現状報告にもなっている。あの頃に日本のヤクザ映画を追いかけていた人にはたまらない1本だろう。それにしても、極悪ヤクザの感情のぶつけ合いに、女の子のキラキラ日常と超能力バトル、北野&三池オマージュ映画などなど、こんなに俺の好きな題材ばっかり手がけるとは……パク・フンジョン、やはり俺の先輩である。先輩、『魔女2』も期待していますよ。あと日本に来たら、ちょっと話しましょう。鳥貴族くらいの予算感になりますが、俺が奢りますから。『クローズZERO』(2007年)とかの話をしましょうよ。絶対に観ているでしょうし、何なら撮ろうとしているでしょう? 韓国から日本の不良高校に転校してきた子がテッペン目指すみたいな、そういう話でいきましょう。などと気がつけば私から監督へのラブレターになってきたので、このへんで筆を置こう。そんなわけでパク・フンジョン先輩、引き続き何卒よろしくお願いします。

敬具 令和3年 加藤よしき

■加藤よしき
昼間は会社員、夜は映画ライター。「リアルサウンド」「映画秘宝」本誌やムックに寄稿しています。最近、会社に居場所がありません。Twitter

■配信情報
『楽園の夜』
Netflixにて配信中

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