北野武や三池崇史への愛が溢れる 『楽園の夜』は90年代日本ヤクザ映画へのラブレター

まごうことなきラブレター映画『楽園の夜』

 私が「ラブレター映画」と呼んでいるジャンルがある。特定のジャンル、特定の映画への愛が先行している映画のことだ。そして先日からNetflixで配信が始まった韓国映画『楽園の夜』(2021年)は、まごうことなきラブレター映画である。

 ヤクザのテグ(オム・テグ)は身内を殺された報復として、敵対組織の要人を襲撃する。テグの行動によって本格的な抗争が始まり、テグは身を隠すため済州島に飛んだ。テグは現地で銃器の密売を行うクト、そしてクトが世話する女、ジョエン(チョン・ヨビン)と出会う。ジョエンは不治の病を患っており、余命いくばくもない。ジョエンとテグの2人は、一緒に暮らすうちに、不器用ながら距離を縮めていく。しかし……済州島から国外へ高飛びするはずが、何か様子がおかしい。クトは襲撃に遭って殺された。テグの仲間も連絡が取れない。弾けるような青い空と海、照りつける太陽の下で殺戮は続く。「ハメられた!」逃げ場を失った2人は、“死”に向かって突き進むのだった。『新しき世界』(2013年)、『The Witch/魔女』(2018年)のヒットメイカー、パク・フンジョンが再び放つ、衝撃のハードアクション!

 ……と、思わず北野武監督の『ソナチネ』(1993年)のビデオ版ジャケットを引用する形であらすじを紹介してしまったが、それくらい本作は『ソナチネ』だ。というか「ドン詰まったヤクザが南の島で最後の時を過ごす」というプロットは、『ソナチネ』まんまだし、何ならもう画面が青く、いわゆる「キタノブルー」までも完全再現している。本作の監督を務めたパク・フンジョンは、これまで幾多のラブレター映画を作ってきた人物だ。『新しき世界』は、『インファナル・アフェア』(2002年)などの香港ノワールへの愛を綴った作品であったし、『The Witch/魔女』は日本のアニメ・漫画へのラブレターだった(※本人に聞いてみないと分からないですが、絶対に皆川亮二先生の漫画は読んでいると思います)。

 そして今回は1990年代の日本のヤクザ映画、もっといえば北野武と三池崇史へのラブレターである。本作は『ソナチネ』成分が濃いが、90年代の三池崇史っぽさも非常に強い。キャラクターの見せ方はドライな北野武映画とは正反対の、ウェットで泥臭いアプローチである。みんなよく喋るし、よく食べるし、ボコボコにブン殴られて、包丁でザクザクに刺されて、何発も銃で撃たれて、「絶対に死ぬだろ」レベルの大出血をしながらも、それでも気合で生き延びて頑張る登場人物たちは、非常に三池崇史的である。主人公が最初に遭遇する雨は『極道黒社会 RAINY DOG』(1997年)を思い出した。三池監督といえば『DEAD OR ALIVE 犯罪者』(1999年)などのエキセントリックでパワフルな作品が有名だが、ウェットで静かな傑作も撮っている。90年代当時、このジャンルを追いかけていた人間的には10分に1回くらいのペースで「あんたも好きねぇ」と頷くばかりだ。

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