『おちょやん』塚地武雅の話術が杉咲花を救い出す 「どうかこの僕と夫婦になってください」

『おちょやん』塚地武雅が杉咲花を救い出す

 千代(杉咲花)は、30数年ぶりに再会を果たした栗子(宮澤エマ)とその孫娘の春子(毎田暖乃)と共に暮らすことになる。そこに思いがけぬ客がやってきた。連続テレビ小説『おちょやん』(NHK総合)第103回では、突然押しかけた花車当郎(塚地武雅)の話術により、千代の心に暖かい笑いのリズムが再び流れ込む。

 千代が去った後のテルヲ(トータス松本)の暮らしぶりを栗子から聞かされた千代。「男に頼るのはまっぴら」と語る栗子もまた、テルヲのせいで苦労の多い人生を歩んできたのだ。家を飛び出し女手ひとつで娘を育てた栗子は、自分が母となり娘への愛を自覚したときに、初めて千代への仕打ちを気にかけるようになったという。一度は栗子の家を出ていこうとした千代だが、春子から宿題を見てくれと頼まれる。字が読めず、孫の宿題の面倒も見られない栗子。そこではじめて千代は、栗子が育ってきた生い立ちが自分とそれほど遠いものではなかったことに気づくのだった。こうして千代は栗子らの家で暮らすことに。

 そして、ラジオドラマの一件もまだ片付いた訳ではなかった。ある日のこと、帰宅した千代が玄関の扉を開けると、「おかえり」と明るい笑顔で待っていたのは当郎だったのだ。ラジオドラマでの共演を願った当郎は千代の元へと突撃訪問していた。「どうかこの僕と夫婦になってください」と唐突に切り出す当郎。驚く千代だったが、それはラジオドラマの中での話。千代はもう女優はやらないとキッパリと断る。あまりにつらい経験に、心は固く閉ざされたままだったのだ。諦めるそぶりを見せない当郎は笑いを織り交ぜながら自分の身の上話をすることで場を和ませ、千代の心を徐々に溶かしていく。

 やがて千代も、かつての勢いを取り戻し、当郎との間にぽんぽんと言葉が飛び交うまでに。「この人と喋ってたら、色んなこと悩んでんのがあほらしゅうなってくる」と徐々に心が温かくなるのを感じていた。

 千代と当郎は、戦時下の防空壕以来の再会。あの時も狭い穴の中で苛立つ人々の心を、当郎は話芸で溶かしていった。そして千代はそのしゃべくり漫才の“相方”として共に「笑い」を届けていたのだ。今回も当郎は人の懐にするりと入り込み、千代の心をやんわりと包み込む。その時、これまで喜劇女優として生き生きと演じてきたあの「笑い」のテンポが千代の心に蘇ったのだった。沈んでいた千代の久しぶりの笑顔には、視聴者もホッと心が温まったことだろう。

 孤独に苦しみ、大切な人との別れを繰り返してきた千代だが、思えば暖かい出会いもたくさんあった。何度も一人になったが、その度千代に手を差し伸べる人物がいたのだ。何度目かの孤独にうちひしがれていた千代だったが、今の千代を救い出せるのは、この当郎なのかもしれない。

■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/

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