『おちょやん』千代が去った道頓堀の状況は? 杉咲花、物語終盤まで一切登場せず
千代(杉咲花)が道頓堀からいなくなってから1年の月日が過ぎた。その頃、NHK大阪の一室では、あるラジオドラマの企画が動き始める。NHK連続テレビ小説『おちょやん』が第21週初日を迎え、物語終盤まで千代が登場しないにもかかわらず、千代と関わりのある人々の話によって「竹井千代」の人物像がはっきりと浮かび上がる回となった。
喜劇役者・花車当郎(塚地武雅)は、ラジオドラマ「お父さんはお人好し」の相手役を千代にやってほしいと強く主張する。当郎は戦時中、防空壕に避難した千代と偶然出会い、千代との掛け合いで人々に笑顔を与えていた人物だ。当郎はあの日の出来事を「あないに楽しい時間は久々やった」と言う。当郎を演じる塚地武雅の真剣な眼差しと、落ち着いた口調だが熱心さが伝わる長台詞によって、当郎が感じた千代の役者としての魅力が伝わってくる。
加えて、千代の一人の人間としての魅力も、脚本家・長澤(生瀬勝久)がとった行動と千代を知る人たちの言葉から伝わってきた。長澤は当初、一人でも多くの人にラジオドラマを聴いてもらうべく、全国的に有名な女優にやってもらいたいと考えていた。しかし「彼女のことをよう知らんままで反対するのも不公平や」と、長澤は自ら道頓堀に足を運ぶ。天海天海(成田凌)との離縁が事実だと知った長澤は、行方不明の千代が死にたくなってもおかしくないと考えたのだが、鶴亀新喜劇の座員やシズ(篠原涼子)たち家族は口をそろえて言う。
「そないなことで死ぬねやったら、彼女はもうとっくに10回は死んでる」
「あの千代が役者辞められるはずあれへんわな」と話していた香里(松本妃代)と天晴(渋谷天笑)、徳利(大塚宣幸)、漆原(大川良太郎)の表情は穏やかで、千代への信頼が感じられる。シズや宗助(名倉潤)は心配そうな表情を浮かべていたが、それは千代を長い間見守ってきたからこそ。真摯に長澤と向き合うみつえ(東野絢香)の表情からも、千代との間柄が伝わってくる。そして長澤を演じる生瀬の表情が、彼らの話を聞き、波乱の人生を送ってきた千代に惹かれていく様子を感じさせる。千代に興味を抱き、「どないな人生やったんや……」と口にした長澤は、千代を捜すよう、プロデューサーらに説得するのだった。
物語終盤まで登場せずとも、人々を魅了してやまない千代の印象が強く心に残る回となった第21週初日。千代がようやく登場したと思ったら、千代が奉公するきっかけを作った栗子(宮澤エマ)と暮らしていたから驚きである。15分間とは思えぬ情報量の多さに驚かされる。
■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/