中村倫也、“守られたい”と“守りたい”を両立 理想的な実写『珈琲いかがでしょう』に寄せて

中村倫也、“守られたい”と“守りたい”を両立

 4月5日より中村倫也主演ドラマ『珈琲いかがでしょう』(テレビ東京系)が放送開始となる。本作は『凪のお暇』などで知られるコナリミサトの同名漫画を実写化したヒューマンドラマだ。中村演じる移動珈琲店「たこ珈琲」を営む主人公・青山一が、様々な境遇に置かれたお客さんたちを心をこめて淹れた珈琲で癒していく。

 今年の1月に実写ドラマ化されることが発表された『珈琲いかがでしょう』。同時に青山を中村が演じることが明らかになった時にはSNS等で大きな話題となった。その理由は以前から原作ファンの間で、もしこの漫画が実写化されるなら青山は中村に演じてほしいという声があったから。青山のビジュアルはもちろんのこと、その仕草や佇まいが中村にしか見えないと噂されていたのだ。

 中村の場合、2019年7月期ドラマ『凪のお暇』(TBS系)で魔性の男・ゴン役を漫画のイメージ通りに演じたという原作ファンからの信頼もあるだろう。『凪のお暇』は黒木華演じる空気を読みすぎてしまう主人公・大島凪が仕事も恋もすべて捨て、新たな人生を歩み出すストーリーで、ゴンは凪が引っ越して着た六畳一間のアパートに住む“お隣さん”。長髪で腕にはタトゥーが入り、職業はイベントオーガナイザー。見るからに危険な雰囲気が漂っているのに、誠実な態度で(ただし目の前の相手にだけ)あらゆる人を受け入れ、心を解きほぐしてしまう不思議な魅力を持った役どころだ。

 しかし、ゴンと関わった人たちはその居心地の良さにドップリと浸かってしまうことから、ついたあだ名は「モーゼの海割り」と「メンヘラ製造機」。そんな刺激的なゴンに凪も心奪われていくのだが、中村が持つ大人の色気が発揮されるDJやタバコをふかす姿、のちに唯一廃人にならなかった凪に恋心を抱き、時折見せた子犬のような切ない表情が視聴者をキュンとさせ、“ゴン沼”にハマる人が続出した。

 この時期から中村はヒロインの恋のお相手として欠かせない俳優となっていく。東村アキコの漫画を実写化したサスペンスドラマ『美食探偵 明智五郎』(日本テレビ系)では、超美食家の探偵・明智五郎役を好演。ワインレッドのスーツにループタイを身につけ、貴族のような喋り口調という超変わり者の役だが、実写化しても違和感のない形で中村は明智という男を見事に演じきった。

 同時に明智は小池栄子演じる殺人鬼マグダラのマリアにシンパシーを感じるなど、どこか危うさを孕んでおり、故に最初は明智のペースに巻き込まれていた小芝風花演じるヒロイン・小林苺も彼を放っておくことができなくなる。また、『この恋あたためますか』(TBS系)の森七菜演じるヒロイン・井上樹木も同様に、中村演じるコンビニ「ココエブリィ」の社長・浅羽拓実に反発しながらも少しずつ恋心を抱いていった。

 思うに中村がドラマで演じるキャラクターの魅力は“守られたい”と“守りたい”、その両方の気持ちを満たしてくれるところにある。

 性格や雰囲気は大きく異なれど、ゴンも明智も浅羽も過去に何らかのトラウマや傷を抱えており、他人の痛みに超敏感。だからヒロインたちは彼らに自然と自己を開示し、ゴンに気持ちを受け入れてもらったり、半ば強引に明智や浅羽の手で新しい場所に連れ出してもらうことでサナギから蝶へと成長していく。そして次に抱くのは、心のモヤモヤをはらってくれた彼の傷を、今度は自分が“どうにかしてあげたい”という気持ちだ。けれど簡単には心を開いてくれないからこそ、どんどん底なし沼にハマっていってしまう。

 いわば殻に閉じこもっているヒロインの手を引っ張っていく王子様的な存在でありながら、実はその王子様も傷や痛みを抱えていることを気づかせ、ヒロインに誰かを守りたいという気持ちを抱かせる現代的なヒーロー像を併せ持ったキャラクターと言えるだろう。

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