『イチケイのカラス』ヒット確定? フジテレビ的なアプローチ光る“リーガルドラマ”の系譜

『イチケイのカラス』はヒット確定?

 その認識を大きく変えて一気にポップになったのが、2001年に放送された木村拓哉主演の月9ドラマ『HERO』(フジテレビ系)だろう。

 そもそも、リーガルドラマは、ミステリードラマの一種だ。ある事件が起こり、被害者を救うために真実を立証する過程で謎解きや人間ドラマを見せていくというのが、基本的な物語構造だが、そこにフジテレビが得意とする『踊る大捜査線』等で培った組織モノの要素を、本作は巧みに取り入れていた。

 弁護士ではなく検事が主人公ということも斬新だった。『赤かぶ検事奮闘記』(テレビ朝日系)という先行例はあったものの、木村が演じた久利生公平は検事でありながら、ラフなジーンズにダウンジャケット姿で、喋り方もフランク。こういったオシャレなキャラクター造形や、『ショムニ』(フジテレビ系)などを手掛けたチーフ演出・鈴木雅之のポップな映像によって『HERO』はヒット作となった。

 本作の成功以降、検事や弁護士は、刑事や探偵と同じ現代のヒーローとして定着し、リーガルドラマはテレビドラマのヒットジャンルとして定番化していくのだが、一つの達成と言えるのが、2012年に古沢良太が脚本を書いた『リーガル・ハイ』(フジテレビ系)だろう。

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 本作が作られた2010年代になると法廷の仕組みや、弁護士、裁判官、検事の役割も、視聴者にも広く認知されるようになっていたため、敷居もだいぶ下がっていた。

 主人公は古美門研介(堺雅人)という勝つためなら手段を選ばない辣腕弁護士。法廷を舞台にした弁護士たちが討論バトルの面白さに加えて、古沢が得意とする、人を食ったような笑いと鋭い社会風刺が込められていた。被害者と加害者が平気で反転する物語など、単純な勧善懲悪で終わらないため、コメディテイストの社会派ドラマとして楽しめた。

 人気海外ドラマを国内向けにリメイクした織田裕二主演のドラマ『SUITS/スーツ』(フジテレビ系)など、今もリーガル・ドラマは作られ続けているのだが、テレビ朝日やTBSで作られる作品と比べると、フジテレビのドラマは全体的にポップで明るい仕上がりになっている。かといって、社会的な事件をまったく扱っていないというわけではなく、むしろ積極的に取り込んでいる。

 とっつきにくい話題を噛み砕いてわかりやすくオシャレでポップな物語に仕上げるというのは、トレンディドラマ以降、培ってきたフジテレビ的なアプローチだ。

 『イチケイのカラス』もポップな社会派ドラマに仕上がるのではないかと期待している。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
『イチケイのカラス』
フジテレビ系にて、4月5日(月)スタート 毎週月曜21:00~21:54放送
※初回30分拡大(21:00~22:24)
出演:竹野内豊、黒木華、新田真剣佑、山崎育三郎、草刈民代、小日向文世、中村梅雀、升毅、桜井ユキ、水谷果穂ほか
原作:浅見理都
脚本:浜田秀哉
音楽:服部隆之
プロデュース:後藤博幸、有賀聡、橋爪駿輝
編成企画:高田雄貴
演出:田中亮、星野和成、森脇智延、並木道子
制作協力:ケイファクトリー
制作・著作:フジテレビ第一制作室
(c)フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/ichikei/
公式Twitter:@ichikei_cx

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