『おちょやん』杉咲花が体現する役者としての覚悟 戦争によって失われていく大切なもの

『おちょやん』千代の願いと覚悟

 太平洋戦争が本格的に始まり、召集令状が届いた福助(井上拓哉)と百久利(坂口涼太郎)は戦地へ。毎日空襲に怯え疲弊した人々は娯楽に勤しむ時間も余裕もなくなり、芝居小屋も次々と歴史に幕を閉じ、岡安もその暖簾を下ろす。賑やかで活気に満ち溢れていた道頓堀はいつの間にかその光を失った。

 『おちょやん』(NHK総合)第84話では、ついに家庭劇にも危機が迫る。座長の一平(成田凌)が口にした「解散」のふた文字。百久利が帰ってくる場所を守ると千代(杉咲花)は息巻くが、戦時中では満足に観客を呼べない家庭劇は大山社長(中村鴈治郎)に見放されてしまい、鶴亀の後ろ盾を失ってしまう。空襲の影響で寝不足が続いている団員にも芝居を続けていく気力はなく、次から次へとその場を立ち去ってしまった。

 心安らげる実家のような場所だった岡安、子供の頃から知っている福助、大事な芝居仲間である百久利、憧れの女優だった百合子(井川遥)と初恋の相手である小暮(若葉竜也)……。たくさんの場所や人が遠ざかり、千代にはもう家庭劇しかない。戦況が悪化していくとともに、みんなが大切にしたものを一つひとつ手放していく。千代にとっては耐え難いことだった。

 けれど、誰もが全てを諦めたわけではない。福助が帰ってきた時に思い切り好きなことをできるように、物資不足を補うための金属類回収令から命がけでトランペットを守ったみつえ(東野絢香)も、疎開せずにいつか再び岡安で一花咲かせようと意気込むシズ(篠原涼子)も、みんな戦争が終わった後の“未来”を見ていた。

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