『奥様は、取り扱い注意』『あな番』ーー劇場版ブーム再燃! ドラマと映画の関係は“変革期”に
そうなると「連動タイプ」の「劇場版」が、その頃勢いづいていた深夜ドラマ帯で加熱していく。2016年には『ディアスポリス‐異邦警察‐』(MBS/TBS)を皮切りに、映画と完全連動するかたちで前日譚などを描くMBS/TBSの「ドラマイズム」が始まり、『咲-Saki-』や『賭ケグルイ』、『映像研には手を出すな!』などの人気作が続々作られていく。さらにテレビドラマと映画も含め、あらゆるメディアミックスで展開する壮大なプロジェクトとなった『HiGH&LOW』が始まったのもこの年だ。
すっかり「テレビドラマ」と「映画」が地続きとなったのは、もはやどちらも娯楽の頂点にあるとは断言できなくなったからかもしれない。娯楽の多様化によって、どちらも決して景気のいいメディアとは言い難いものとなった。とりわけここに挙げた深夜枠の作品は、映画ありきでドラマを先出して見せるものが多く、「ドラマが流行ったから映画」というかつての流れが逆転してしまったきらいさえ感じてしまう。映画の回収難というリスクを回避するためには致し方ないことではあるが、それではあまりに消極的だ。しかもそんな2016年に、「劇場版」の先駆けとなった『あぶない刑事』の完結編が作られたというのも時代の流れを感じさせる。
しかしそんな時代の変化は、かつてのように闇雲な「劇場版」が乱発することを抑制し、全体的なクオリティアップにつながった。ましてや視聴率以上にSNSの反響などで作品の人気が可視化されるようになったことや、ドラマ最終回の放送後には「〇〇ロス」という言葉が用いられて視聴者自身がその余韻を作り出すようになったことは、「劇場版」へ繋げる大きなステップにもなる。2017年にドラマ版のシーズン3が放送された『コードブルー -ドクターヘリ緊急救命-』(フジテレビ系)はその最終回で映画化を発表。テレビの発信力を最大限に使ってファンの意識を持続させたまま劇場版に繋げ、同作は2018年の日本映画の年間興収トップを獲得する。もちろん映画としても、確かなスケール感があり「劇場版」としての意味も感じさせた。いまの「劇場版」ブームは、この『コードブルー』の成功例が作り出したものだと考えて間違いないだろう。
とくに昨今のテレビドラマの多くは、大きな一本の筋を通しながら各エピソードごとのトピックを展開していき、終盤で一気に畳みかける構造が主流だ。となれば、「劇場版」へ繋げる伏線を残しておくことが容易となり、ドラマ版からSP版を経て劇場版シリーズに拡張していった『コンフィデンスマンJP』や『ルパンの娘』あたりはまさにその典型例であろう。これは前述の「連動タイプ」に近いものがある。社会現象を巻き起こした『おっさんずラブ』のような視聴者の「〇〇ロス」を満たすタイプは2000年代の「お祭り型」ムーブメントを彷彿とさせるし、ドラマ先出しタイプも話題性よりもクオリティ重視に向かうことで、『宮本から君へ』のような大絶賛を獲得する。模索され尽くした「劇場版」のあらゆるタイプが、それぞれの作品の特性を持った上で混在する形になっているのは興味深い。
また今年に入ってからも、続々と「劇場版」の製作が発表されている。2019年に放送されSNS上で考察合戦が白熱した『あなたの番です』(日本テレビ系)は“if”のパラレルストーリーとして。2016年と2018年に高視聴率を記録した『99.9-刑事専門弁護士-』(TBS系)は明確な続編として。そして『シャーロック』(フジテレビ系)はドラマ版では描けなかったスケールの大きな事件を描く。いずれも「流行ったから映画化」というオーソドックスなタイプではあるが、その内容面ではこれまで以上に高い自由度の中、どのように映画にするのが適切なのかを練り込まれんで「劇場版」へ踏み切った印象だ。
そうなれば「知っている作品だから」という観客側にも作り手側にも影響してしまう安直すぎる“安心感”はただの踏み台になり、一本の独立した「映画」としてのクオリティが高まり「劇場版」であることの意味が見出される。さらなるボトムアップも見込めるのではないだろうか。「テレビドラマ」と「映画」の関係は、20年以上にわたる長期的なブームのなかで、最大の変革期に突入したのかもしれない。
■久保田和馬
1989年生まれ。映画ライター/評論・研究。好きな映画監督はアラン・レネ、ロベール・ブレッソンなど。Twitter
■公開情報
劇場版『奥様は、取り扱い注意』
全国公開中
出演:綾瀬はるか、西島秀俊、鈴木浩介、岡田健史、前田敦子、鶴見辰吾、六平直政、佐野史郎、檀れい、小日向文世
原案:金城一紀
脚本:まなべゆきこ
監督:佐藤東弥
エグゼクティブプロデューサー:伊藤響、西憲彦
プロデューサー:枝見洋子、飯沼伸之、和田倉和利、坂本忠久
配給:東宝
製作 : 日本テレビ放送網株式会社ほか
(c)2020映画「奥様は、取り扱い注意」製作委員会
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