想像力をかき立てる! 『THE LIMIT』が繰り広げる、“半径3メートル”の人間模様

『THE LIMIT』が描く絶妙な人間模様

 最近よく耳にする“ソーシャルディスタンス”というのは2メートル以上の距離感を推奨しているらしい。そう考えると「半径3メートル」というのは、関わる相手との適切な距離感を示すパーソナルスペースよりはかなり広く、それでいてまったく関わりのない他者を認識するパブリックなスペースよりは狭い、なんと絶妙で曖昧な距離感といえようか。

 3月5日からHuluで配信されるオリジナルドラマ『THE LIMIT』は、そんな距離感の中で繰り広げられる6つの人間模様を描いたオムニバス作品である。

 同一の限られたシチュエーション下で繰り広げられるいくつものエピソードを重ねることで築き上げられていく“シットコム(シチュエーション・コメディ)”と呼ばれる種の作品は多々あるが、それらと比較してみても、本作の置かれている“シチュエーション”はかなり限定的だ。物語の舞台となる空間はひとつだけであり、登場人物もそれぞれ4人程度。ストーリー自体もリアルタイムで進行する約30分程度の1話完結となっており、その中で器用に起承転結が与えられているのだ。

 それぞれの作品のテイストもコメディからサスペンスまで幅広く、完全に異なる6つの物語と遭遇することができる。タクシーの車内やアパートの狭いユニットバスの一室、はたまた喫茶店など、舞台設定も登場人物たちが置かれているシチュエーションもまるで異なり、どれもがそのシチュエーションでなければ成立し得ない物語となっている。必然的に、限られた空間/時間の中でどのような物語が展開していくのか、どのような会話の応酬が繰り広げられるのかという脚本のセンスが作品の根幹を担うこととなり、同時に演じる俳優の技量に作品の完成度の大部分が委ねられることとなる。

第5話「切れない電話」

 本作で脚本を手掛けているのは、劇団「青年団」の演出部に所属しながら自らの劇団「玉田企画」を主宰する玉田真也、お笑いコンビかもめんたるのメンバーで脚本家や舞台演出などマルチに活動する岩崎う大。そして『かもめ食堂』や『彼らが本気で編むときは、』など国際的にも評価の高い荻上直子と、各エピソード同様まったく異なるバックグラウンドを持つ3人。そしてキャスト陣も、伊藤沙莉や門脇麦、細田善彦、岡山天音、泉澤祐希、浅香航大といったバイプレイヤーでありながら主演級も務められるだけの演技力を持つ若手俳優たちが揃う。

第1話「ネコと井戸」

 玉田が手掛けた第1話「ネコと井戸」は、井戸に落ちた猫を助けようとする3人の男女の恋の駆け引き模様を描き、このオムニバスドラマの導入にはもってこいのユニークなシチュエーション性とドラマ性が展開する。伊藤沙莉と堺小春が演じるカフェ店員の2人が、何気なく通りがかった場所にある井戸で、子猫を助けようとしている坂東龍汰演じるカフェの常連客と遭遇。あらゆる手を尽くして猫を助けようとしながら、些細な会話の連続によって、彼らの間に生まれる一方通行の恋のベクトルが徐々に浮き彫りになっていくというシンプルながら、よく練り込まれたストーリーだ。

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