想像力をかき立てる! 『THE LIMIT』が繰り広げる、“半径3メートル”の人間模様

『THE LIMIT』が描く絶妙な人間模様

 また玉田は他にも第2話「タクシーの女」と第4話「ベランダの男」も担当。門脇麦演じる弁護士の女性が偶然乗り込んだタクシーの運転手が、古川琴音演じる妹だったという予期せぬ遭遇から始まる前者は、タクシーという移動するシチュエーションがリアルタイム進行以上の時間の流れをもたらし、ドラマ性を高めていく。また同僚女性の部屋に忍び込んだ岡山天音演じる男がベランダから動けなくなってしまう姿を描く後者も、部屋の中で繰り広げられる二転三転するストーリーを主人公と一緒に窓越しに見ることで、不思議な感覚を味わえる。そしてどちらも、ワンシチュエーションという設定に奥行きを与えるように巧みに利用される携帯電話というアイテムが活きるのだ。

第4話「ベランダ男」

 携帯電話を駆使するという点では、岩崎が脚本を手掛けた第5話「切れない電話」もなかなかユニークな方法論が取られる。見知らぬ番号からの着信によって勘違いで恋人に振られた泉澤祐希演じる青年が、その電話越しの相手からひたすら振り回されるという物語だ。電話越しの会話がメインとなる点で泉澤の一人芝居になるのかと思いきや、そこに喫茶店のマスターを演じる岩松了が加担することで、話はどんどんシュールな方向へと進んでいってしまう。同じく岩崎の第3話「ユニットバスの2人」もコントのような前半の展開が、一瞬でサスペンスに転じる言葉の駆け引きが実に見事であり、“ありえそうもない”シチュエーションの中で起きるまったく“ありえない”出来事という異質さが、『世にも奇妙な物語』(フジテレビ系)のような魅力さを生む。

第3話「ユニットバスの2人」

 どの作品もワンシチュエーションの限界点を追求しながらあらゆる方策によって物語に奥行きを与えようとする脚本の豊かさと、それを抜群の表現力で具現化していく俳優たちの化学反応が際立つわけだが、その中でも荻上が脚本を手掛けた第6話「高速夜行バス」はやはり出色の出来栄えであった。夜行バスの通路を隔てて座る、浅香航大演じる若い男と、木野花演じる老女。終始座席に座っていることもあり、他のエピソードよりも圧倒的に動きは少なく、ひたすら2人の表情の切り返しと言葉のやり取りだけで重ねられる完全な会話劇だ。それでもその会話によって語られるもうひとつのシチュエーションが、目に見えるように存在しつづけ、ただただ想像力をかき立てられていく。

第6話「高速夜行バス」

 この『THE LIMIT』は、Huluが3月から4K・HDR配信を開始することにあわせて制作されたものだそうだ。俳優たちの息遣いや些細な表情の変化さえひとつも逃さない高精細な画面とクリアな音質によって、緻密な脚本の物語を見ることができるというのはなんとも贅沢な体験だ。これはまた、新たなキャストで新たなシチュエーションが待ち受けるシーズン2の制作を期待せずにはいられない。

■久保田和馬
1989年生まれ。映画ライター/評論・研究。好きな映画監督はアラン・レネ、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

■配信情報
Hulu オリジナル『THE LIMIT』
3月5日(金)から、Huluで毎週1話ずつ配信(※通常配信に加え、4KHDR/5.1ch でも配信)
出演:
第1話「ネコと井戸」:伊藤沙莉、堺小春、坂東龍汰
第2話「タクシーの女」:門脇⻨、古川琴音
第3話「ユニットバスの2人」:細田善彦、岩崎う大(かもめんたる)
第4話「ベランダ男」:岡山天音
第5話「切れない電話」:泉澤祐希、岩松了、夏子
第6話「高速夜行バス」:浅香航大、木野花
脚本:玉田真也、岩崎う大、荻上直子
エグゼクティブプロデューサー:長澤一史
チーフプロデューサー:茶ノ前香
プロデューサー:中村好佑 小室秀一
企画:三浦光博 塚田雅人 賀内健太郎
監督:賀内健太郎 吉田真也 中嶋駿介
制作プロダクション:博報堂プロダクツ
製作著作:HJホールディングス
公式サイト:https://www.hulu.jp/static/thelimit/

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