池松壮亮が考える“物語”が持つ役割 「人間にとって絶対に必要なもの」

池松壮亮が考える“物語”が持つ役割

 東日本大震災からちょうど10年の時が経とうとしている。現在進行系で復興に歩み続ける人々を主役にした物語が、NHKの特集ドラマ『あなたのそばで明日が笑う』だ。よるドラ『腐女子、うっかりゲイに告る。』でも心の機微を描き出した三浦直之が脚本を手掛け、主演・綾瀬はるかと池松壮亮が物語の中心となる。

 震災で行方不明となった夫を待ち続ける蒼(綾瀬はるか)、居場所を求めて移住して来た建築士・瑛希(池松壮亮)。宮城県石巻市を舞台に、蒼、瑛希ら、いまを生きる人々が、もう一度、“笑顔を取り戻す”姿が描かれる。

 瑛希を演じた池松壮亮は、本作に出演するにあたり“覚悟”を問われたと語る。東日本大震災からの10年を池松はどう捉えたのか。じっくりと話を聞いた。

「人間のあらゆる実存危機を考えていた」

ーー東日本大震災からまもなく10年の時間が経ちます。池松さんも20代から30代へと変化の10年だったかと思いますが、振り返ってみていかがですか?

池松壮亮(以下、池松):そうですね……あっという間だったような気もしますし、長かったようにも感じます。震災当時、僕は20歳でした。地方から東京に出てきたばかりで街にも慣れていない状況で。震災が起きたときの衝撃、あのときの街に漂っていた空気は10年経っても忘れられずに残っています。ただ、その後にすぐに被災地を訪れてボランティアに取り組んだり、震災に関する作品に出演するという機会を逃してしまったんですね。まだ東京に出てきたばかりで自分自身に余裕がなかったのかもしれません。その後も震災に関する作品のお話は何度かいただいたのですが、「自分でいいのか?」というしこりのようなものがずっと残っていて、タイミングも合わず、受けることができませんでした。でも、あれから10年の月日が経ち、現在もコロナ禍が続く中で、震災に向き合う覚悟とタイミングがようやく巡ってきました。やっぱり、あのときに何も動けなかった後悔のようなものがずっとあったように思います。

ーー本作で演じた瑛希は、震災当事者ではなく、外からやってきた人間です。綾瀬さんが演じる蒼と互いに惹かれ合いながらも、“喪失”という思いは共有することができない。演じるにあたって瑛希としてどんなことを大事にされましたか?

池松:震災に限らず、どんなに相手のことを大切に思っても、その悲しみを完璧に背負うことは無理だと思うんですね。これは役者という仕事にも通ずるものがありますが、演じるということはフィクションであり、その人物に100%なれるわけではありません。でも、役を纏うことで別の人生を追体験することはできる。そこでなにかを感じることが僕たちはできるわけです。僕は10年前に被災地にはいなかったので、どんなに頑張っても絶対に“当事者”にはなれません。“当事者”の方々の10年と、それ以外の人たちの10年はあまりにも違うと思います。でも、演じた瑛希もそうですが、“当事者”になれないから諦めるのではなく、それでも、苦しみや悲しみを持つ相手にできることは寄り添うこと、寄り添う意思を持ち続けることなんじゃないかという気はしていて。本作のお話をいただいた時、ちょうどそんなことを考えていた時期で、それはやはりコロナがあり、オリンピックが延期になり、アーティストの相次ぐ死があり、あの日から10年を向かえようとしていること、自分自身が感じる人間のあらゆる実存危機を考えていたタイミングでした。そのことがこの作品へと自分自身を突き動かす原動力となったような気がします。

ーー本作のキーワードのひとつに“区切り”があります。瑛希の「区切りなんてつけなくていい」という台詞がとても印象に残りました。

池松:この作品の主人公は夫を亡くしており、ましてや遺品も姿も、未だ見つかっていません。実際にあの町には未だ見つからない方が現在2500名ほどいらっしゃいます。震災によって大切な人を失った方に対して、「区切りをつけて前に進もう」とは決して言えないですよね。僕も当事者ではなくても、「区切られたくない」という気持ちはよく分かります。でも、蒼も本当は区切りを付けたいはずです。出来ることなら前に進みたいに決まってます。そんな区切りなんて付けられないという人物を主人公に据えるというのは物語として面白いなと感じました。生きていく上で人間には「区切り」が必要だし、時代の転換期には区切って振り返る必要もある。本作も含めてあらゆる表現は、可能性を提示することと同じように、命や愛に限りがあること、区切りがあることを、図らずとも提示するものだと思うんです。「区切らなくていい」と伝える一方で、「区切る」ことの大切さも伝えることはすごく重要なことなのではないかと思っています。

ーー「区切らなくていい」の他にも本作は印象的な台詞が多くありました。三浦直之さんの脚本を最初に読んだときの感想を教えていただけますか?

池松:三浦さんは被災地の宮城県出身です。だから書かれている台詞ひとつひとつの言葉にも深く意味を感じました。被災者を見守ってくれたり、被災地を応援してくれる気持ちはうれしいけど、そうではない思いもどうしたって紛れ込むはずで。ただそっとしておいてほしいという気持ちもあると。なかなか言葉にはしづらい、繊細な気持ちを本作の脚本に宿してくださったように感じました。ただ、忘れてはいけないあの日と被災者を描くというものだけではない、もう一歩踏み込んだ内容になっていると思います。

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