『花束みたいな恋をした』は“最後の砦”? “コミュニケーション”を軸に考える近年の恋愛映画

『花束みたいな恋をした』から辿る恋愛映画

 正直、片想いは簡単だ。一方的な感情を持ち合わせていればいいだけで、それを放棄することだって自分自身で自由に選べる。「片想い=切ない」なんて、とんでもない。片想いほど楽なコミュニケーションはない。『勝手にふるえてろ』のヨシコのように、自分の見ていたい世界を見ることができるし、当の本人にそれをぶつけない限りその世界の均衡は保たれる。もちろん、彼と本当の関係性を求めるならそこから一歩も二歩も踏み出さなければいけないが。『愛がなんだ』のテルコはそれで言うと、かなり踏み出していた。彼に気に入られるためなら、なんでもした。一緒に朝を起きて、横で歯を磨いても恋人ではない。簡単に言えば、愛を搾取され続ける日々である。テルコの恋心と執念にも近いような努力は結果、関係性をやめたいというマモルの申し出で散ってしまう。それでも、テルコは恐らく本記事で挙げた恋愛映画の中で一番の幸せ者である。なぜなら、その後も相変わらずマモルの近くにいようと、彼への確固たる愛を持ちつづけることができたから。確信的な「恋人ではないよね」というコミュニケーションを避け続け、その結果落ち着いた最強の一方通行のコミュニケーション。

 片思いの関係や、付き合う前の二人の関係以上に、付き合った後のカップルにとって、このコミュニケーションの重要性は飛躍的に上がる。むしろ、それが全てと言っても過言ではない。そして別れてしまったカップルはその大半がコミュニケーション不足によるものだと思うのだ。

『劇場』(c)2020「劇場」製作委員会

 『劇場』がその良い例だ。付き合ってすぐの頃は、誰もが大抵は楽しいから盛んにコミュニケーションを取る。一緒にテレビを見て笑ったり、出かけて物事に対する考えを交換したり。しかし、永田は自分に対する劣等感を沙希に向けてしまい、無意識に彼女を押さえ込もうとしてしまった。沙希は彼の弱さを全て理解した上で受け入れていたのにも関わらず、そう伝えることさえも永田の自尊心を傷つけるとわかっていたから、何も気づかずにいるフリをしていた。会話もなくなり、お互いに何を考えているのかわからない状態で暮らしを共にすることになる。対話がないと、それは誤解を生み、必要以上に疑心暗鬼になったり悩んだりして結果心を消耗しやすい。永田だって、気がつけば沙希が何を考えているのか理解できなくなり、怖くなった。明らかなコミュニケーション不足だったこの二人が、もし素直に腹の内を割って話していたら、別れることもなかったと思うのだ。なぜなら、お互いをしっかり受け入れあっていたから。愛があったから。沙希は最終的に、その愛がすり減りすぎて空っぽになってしまったのだが。

『生きてるだけで、愛。』(c)2018『生きてるだけで、愛。』製作委員会

 コミュニケーション不足は、『生きてるだけで、愛。』でも問題となっていた。気性の激しい寧子と津奈木がなぜ共に暮らすことができたのか。それはまともに取り合っていなかったからだ。もちろん、時と場合と相手によっては自分もどれだけ関わるべきか関わらないべきか、その境界線が重要になってくる。お互いの精神を守るためにも適度な距離感は必要なことだが、津奈木は寧子のSOSにも答えなくなっていく。面倒くさいから。疲れるから。とはいえ、寧子も日々、津奈木からのコミュニケーションを拒絶していたので当然の流れだと思う。お互いの、お互いに対する関係性への“諦め”が浮き彫りになっている。

 もちろん、別れた方がお互いにいいことだってある。昨今、相手に直してほしいことがあったら会話、コミュニケーションをとって、恋人同士で改善し合うということが難しくなってしまったように思える。「そんな僕を受け入れられないなら、君とは一緒にいれない」、そりゃあそうだけど、そうして耳を塞いでばかりでそれに慣れてしまうと、人はどうなってしまうのだろう。コミュニケーションを取ることを諦めてしまのではないだろうか。それは、関係を持つこと自体を諦めるということだ。

  その点でよく頑張ったのが、『寝ても覚めても』だ。朝子があれだけ亮平の気持ちを踏み躙ったにも関わらず、亮平は最後に彼女を完全に拒絶しない。一方、朝子も簡単に諦めずにしがみつく。彼女がどれだけ麦のことを考えていようが、亮平と恋人として過ごした5年間は間違いなく真実で、それを亮平も理解していたからだと思う。お互い好きな気持ちが残っている中、傷つき、感情的になった状態でその関係性を切り離せば絶対あとで後悔する。だから、亮平は朝子を罵り、朝子は亮平に素直な思いの丈を叫んだ。泥試合のようなラストシーン。今後の関係性を保つには、弛まぬコミュニケーションの努力が必要なカップルだけど、なんとか頑張ってくれと思う。亮平は偉い。今後、何かある度に朝子のあの時の行動を引き合いに出し始めたら終わりだけど。

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