三宅唱が語る、2020年に映画監督として考えていたこと 「映画ならではの力を探りたい」

三宅唱が振り返る2020年

言葉とは関係ないところに映画はある

Netflixオリジナルシリーズ『呪怨:呪いの家』

――そして7月にはついに、その『呪怨:呪いの家』の配信がNetflixで始まったわけですが、まさかああいう状況下で公開されることになるとは……。

三宅:まあ、思ってなかったですよね。撮影していた時は、テレビをつけたらオリンピックをやっていて、Netflixをつけたら『呪怨:呪いの家』が流れるという、そういう世の中になるのか、と思って撮影していたところもちょっとあったんですけど。オリンピックが横に並ぶと、1964年から2020年の間に起きたことをなかったことにはしない、とも言える内容だなと。

――世界190カ国で一斉に配信がスタートしたとのことですが、そのあたりのリアクションは、やっぱりこれまでと違いましたか?

三宅:こんなに観られるのかっていう驚きはありました。ものすごい数の人たちが観てくれたようなので。ただ、公開初日を映画館で迎えた経験のある身としては、映画館で感じる独特の空気みたいなものは体感できないので、妙な戸惑いはありました。家でいつもどおり夕飯食べながら、配信の初日ってこんな感じなんだなあ、と。

――まあ、実感としては、そういうものなのかもしれないですよね。

三宅:リアクション動画みたいなものは初めてだったので、それは面白かったですね。いろんな国の人がちゃんと怖がってくれているのが見れるという。

――物語自体も非常に不穏なものになっていましたが、それ以上にその背景にある80年代末から90年代にかけて実際にあった事件の禍々しさが、個人的にはものすごく怖かったです。

三宅:それは、僕も台本を読んだときに感じました。昭和から平成、そして令和へと年号は変わっていきましたけど、別になにもリセットされた訳ではなくて、80年代から現在に至るまで、ずっと切れ目なく繋がっているものを感じました。こういう国で自分は育ってきたんだよな、と。そこは自分としても、やりがいのあるポイントの一つでした。

――そして、『呪怨:呪いの家』のあとは……。

三宅:夏は、東京国際映画祭主催のワークショップと、横浜国立大主催のオンラインのプロジェクトに参加していました。

――東京国際映画祭のユース部門「TIFF ティーンズ映画教室2020」と、横浜国立大学のオンラインプログラム「都市と芸術の応答体2020」ですね。三宅監督は、こういうワークショップ的なものに、結構参加されている印象がありますけど。

三宅:演技のワークショップは全然やらないんですけど、こういうことは好きなんでしょうね。2018年に『ワイルドツアー』を作ったとき、山口情報芸術センター(YCAM)に行って、そこでいろんなジャンルの方たちと過ごしたのは刺激になったし、それ以前から建築家の鈴木了二さんと一緒に仕事をさせてもらったりだとか、ジャンルや世代の違う人たちと一緒に何かものを作ったりするのは好きです。知らないことに触れられるので。

――なるほど。

三宅:今回は横浜国立大学の藤原徹平さんと平倉圭さんに声を掛けていただいて。「土木と詩」というテーマだったんですが、もう全然知らないし、わからない。ただ、いろんなジャンルのアーティストなど参加メンバーらと一緒に、手探りでやっているうちに、自分とは接点がないと思っていたはずの土木が、実は自分も日々関係していることが体感できて。僕も短編を2本作ったので、近々発表する予定です。

 あと、そのプロジェクトが、週に1回、夜に2時間オンラインで、世界中の会ったこともない人たちと話す形式だったんですが、それが自分にとってはいいルーティンになりました。そこでいろいろ話して、また1週間、本を読んだり映画を観たり散歩したりして、そこで考えたことをまた話して。そのサイクルは、特に去年みたいな状況においては、すごく健康的で良かったなっていう気がしています。

 「TIFF ティーンズ映画教室」のほうは、中学生向けの映画を作るワークショップだったんですけど、そういうことはこれまでもいろいろやってきたものの、オンラインでやるのは初めてだったので、さすがにこれまでとはまったく勝手が違ってましたね。僕が何かしたというよりも、今回は参加した中学生たちがすごい頑張って、無事に終わりました。

――今、おっしゃったように、三宅監督は、子供たちと一緒に映画を作るワークショップを、これまでもいろいろやってきていますが、それはどういうモチベーションからなのでしょう?

三宅:何だろうな……「映画って何だろう、どうすればもっと面白くなるんだろう」っていうことをゼロから考えるきっかけになるんですよね。まだ映画を作ったことがない人を相手にするので、映画づくりをある程度シンプルな言葉で説明できるようにその都度必死に考えるし、一緒に体を動かすことで新しい発見があるし、それが面白いからっていう感じですかね。僕個人のモチベーションとしては。

――そのあたりがユニークですよね。「映画とは何か」を、映画関係者と議論するのではなく、子供たちと一緒に考えるという。

三宅:子供だとかアマチュアっていうのはそんなに関係がなくて、手を動かしながら考える、というのが自分には向いているっぽいです。今はいつでもだれでも気軽に撮れるので、仕事の責任とは別の次元で、議論と実践を同時平行でやれるのはラッキーな時代だと思います。それと、そもそも言葉とは関係ないところに映画はあると思っているというか、言葉では説明できないところに映画の旨味はぎっしり詰まっているはずなので、その部分はもう、議論じゃなくて、体でしか味わえないだろうな、と思っています。

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