1980年代と現在がつながる構図に、“真実と嘘”というテーマ 『ワンダーウーマン 1984』を解説

『ワンダーウーマン 1984』を解説

 ダイアナがふたたびワンダーウーマンとして復活していく一連のシーンは、ストーリーはもちろん、『カサブランカ』(1942年)などに代表されるハリウッドのクラシック映画を彷彿とさせる、ガル・ガドットとクリス・パインのロマンス演技、それがCGと撮影技術が活かされた場面へとつながる、現代のヒーロー大作映画ならではの魅力が融合した、強力な見せ場となっている。このカタルシスは、近年のヒーロー映画のなかでも圧倒的ではないだろうか。前作の「ノーマンズランド」を疾走する名場面よりも、さらにエモーショナルなものとなっていると感じられる。

 さて、この一連の物語で本作が描こうとしていたのは何だったのか。過去の時代の問題と現代の問題がリンクするのが、パティ・ジェンキンス監督の手がける本シリーズの特徴である。世界の脅威の背景にあるのは、冷戦による核開発競争だ。アメリカとソ連は、膨大な数の核兵器を配備し、互いに相手に勝る軍事力を得ようとしていた。それは同時に、代償として両国や世界の破滅のリスクを一気に増大させることになった。

 1984年当時の大統領ロナルド・レーガンは、タカ派として知られる政治家であり、核兵器を迎撃するシステムを構築するという「戦略防衛構想(通称:スター・ウォーズ計画)」を発表するなどソ連との対立を強め、ポケットに核兵器の発射コードを入れていたことで知られる。一方で1987年にはソ連と「中距離核戦力全廃条約」を結び、部分的な軍縮に向かったという一面もある。その史実こそ、本作で描かれた騒動によるものだったという解釈もできるだろう。

 願いと代償。それが、本作が示す1980年代と現在がつながる構図である。1980年代は、アメリカのクリスマス商戦に代表されるように、大量消費社会が先鋭化され、ポップカルチャー(大衆文化)が席巻した時代である。経済学者のロバート・ライシュは、1980年代から政治と企業の関係が強まり、大企業に有利なルールが施行されたことが、貧富の差を大きく広げる要因になったと指摘している。現在のアメリカにおいて経済的な中間層が減少し、極端な金持ちと貧困者が増加した転換点として、1980年代は大きな意味を持っているといえよう。

 利益の追求のため需要を増やそうとする企業は、クリスマス商戦に代表されるように、メディアの力によって市民の物欲を煽り、物を持つことが幸せだというメッセージを人々に浸透させていった。このように画一化された“願い”を先回りして創出し提案する方法は、本作のマックスのやり口そのものといえる。そして、売れば売るほど企業は都合の良いルールによって肥え太ることができる。まさに、“チート”である。

 本作が描いた1980年代の問題は、このように政治と企業が癒着して人々を思い通りに動かしていくという社会構造の完成である。その手法が現在も継続していることは言うまでもないだろう。そして、それは現在の日本社会にもいえることだ。

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