『ワンダーウーマン 1984』にみるアメリカ近現代史 “ヘスティアの縄”が果たす重要な役割

『ワンダーウーマン 1984』にみるアメリカ近現代史 “ヘスティアの縄”が果たす重要な役割

 DCコミックスが誇る女性スーパーヒーロー、ワンダーウーマンのコミック雑誌デビューから70年以上経ってようやく実写による単独主演映画が作られたのが2017年。世界中で空前のヒットを記録し、すかさずマーベル陣営もアベンジャーズ結成の鍵を握るヒロインを主人公に『キャプテン・マーベル』(2019年)で対抗。さらにDCはシリーズ第2作『ワンダーウーマン 1984』、マーベルは『ブラック・ウィドウ』で2020年を華々しく女性スーパーヒーローの対決によって盛り上げる予定だったが、パンデミックの拡大のために両作とも2度3度と公開日が延期されてしまった。

 ディズニーアニメを含むエンターテインメント大作の分野も、ジェンダーあるいは人種の問題、多様性の擁護という課題から無縁でいられる時代はとっくに終わっている。しかし現状はまだ不十分であり、いっそうの進化、深化が求められるが、中でもワンダーウーマンは1941年のコミック雑誌での登場以来、アメリカ国内でフェミニズムの象徴として遇されてきた歴史を思うと、最も責任重大な題材だと言える。フェミニズムの象徴としてのワンダーウーマンについては、ジル・ルポール著『ワンダーウーマンの秘密の歴史』(邦訳2019年、青土社刊)にくわしい。なお、同書は1910年代の第1次フェミニズム運動、1970年代の第2次フェミニズム運動についても多くを知ることのできる好著なので、ぜひお薦めしたい。

 今回の第2作『ワンダーウーマン 1984』はタイトルどおり1984年を舞台にしている。1984といえば、なんといってもジョージ・オーウェルが全世界のファシズム化を警告した近未来小説『1984年』を思い浮かべるけれども、その連想は図星で、この映画には小説の中の独裁者 “ビッグ・ブラザー” みたいな輩が登場する。マックス・ロードという単にビックマウスなだけの山師だが、スクリーンを通して民衆を教化し、世界征服の野望を狙っている点は “ビッグ・ブラザー” とまったく同じである。

How Apple’s “1984” Commercial Changed the Super Bowl forever | NFL Films Presents

 そして“ビッグ・ブラザー” に敢然と立ち向かう1人の女性アスリート。Apple社が初代Macコンピュータ発売時に放送した記念すべきCM「1984」だ。『エイリアン』『ブレードランナー』と連打した直後のリドリー・スコット監督が手がけたCM「1984」は1984年1月22日、アメリカンフットボールの優勝を決めるスーパーボウルの第3クォーターブレイクで放送され、大反響を巻き起こした(NFL Films公式YouTubeで試聴可)。『ワンダーウーマン 1984』の製作チームが主人公に演じさせたかったのは、 “ビッグ・ブラザー” に鉄槌を投げつけるCM「1984」の女性アスリートであることは、火を見るよりも明らかだ。

 世界征服を狙うハイテク企業のCEOだの、マッドサイエンティストだの、宇宙征服を狙う異星人だの、毎度のパターンが反復されすぎて辟易とするが、そんなことで白けるようではアメコミ映画のファンはつとまらない。ヴィランたちの馬鹿げた誇大妄想に毎回つき合うのがアメコミ映画観客のマナーだ。今回のマックス・ロードもやってくれる。パワーストーンから絶大な超能力を受け取った瞬間、彼のオフィスは嵐のような突風が吹きすさび、書類という書類がバタバタバタと舞い踊る。ジョン・カーペンター監督のホラー的瞬間のようではないか。アメリカ映画かくあるべし。マックス・ロードを演じたペドロ・パスカルの躁状態の熱演も素晴らしい。しかもその図を、オフィスの外から醒めた目で撮っていたりもする。パティ・ジェンキンス監督、やるじゃないかと思った。今回の勝因は彼女がザック・スナイダー傘下のグリグリ可変スピードCGの影響圏を脱したことにあり、代わりに映像の主軸となったのは、彼女自身がシルク・ド・ソレイユとの交流から着想を得たワイヤーアクションによる肉体の躍動である。

 マックス・ロードが超能力を発揮した瞬間に鼻血を出すのは原作コミックどおりなのだそうだ。ヴィランにはヴィランの情熱があり、悲願がある。だから愛おしい。絶大なパワーを見せつけてガハハハと余裕の高笑いを披露するヴィランがあまりにも多いが、ああいうのは単に馬鹿に見えて、見ているこちらが恥ずかしくなってくる。ちなみに『スター・ウォーズ』シリーズの皇帝ももう少しパルパティーン議長時代の狡猾さ、上品さを保っていれば陰影が出てよかったのに、ただ単にガハハハ系のヴィランに堕してしまったのが残念だった。監督のパティ・ジェンキンスは、次期『スター・ウォーズ』新作『ローグ・スカッドロン』の監督をつとめるそうだから、ぜひ安易にガハハハ系に堕さない優れたヴィランを構築してもらいものだ。

Star Wars: Rogue Squadron – Official Teaser (Directed by Patty Jenkins)

 DCよりもマーベルのほうがシリーズとしては成功しているかもしれないが、DCは2019年の『ジョーカー』、今回の『ワンダーウーマン 1984』と、サーガの全体性に束縛されないリラックスした単体作品に光明を見出した感がある。『ワンダーウーマン 1984』はDCユニバースの全体性を考慮することなく、ジャスティス・リーグについての知識を求められることなく、リラックスして楽しむことができる。デュラン・デュランやザ・カーズといった80年代ロックのサウンド付きで。

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