山崎育三郎、古川雄大、市川猿之助ら、2020年に活躍したミュージカル/歌舞伎界の舞台俳優たち
2020年、演劇界はかつてない事態に襲われた。2月末から夏にかけて、多くの舞台が中止、もしくは延期となり、劇場は呼吸を止められてしまった。初日直前のゲネプロ(最終舞台稽古)終了後、突然キャストに上演中止が伝えられる悲劇に見舞われた公演もある。
毎日のように送られてくる公演中止の報。そんな明日が見えない日々の中、ひとすじの光となったのが、舞台発の俳優たちがドラマの世界で見せた輝きだ。本稿では舞台に軸足を置きながら、ドラマの現場でも存在感を見せつけた彼らの仕事を振り返ってみたい。
ミュージカル俳優が集結した『エール』
まずは4月から11月にかけて放送されたNHK連続テレビ小説『エール』。昭和の国民的作曲家・古関裕而と妻・金子(きんこ)をモチーフに置いた本作には、山崎育三郎、古川雄大、吉原光夫、小南満佑子、井上希美、柿澤勇人、堀内敬子、海宝直人といったミュージカルの舞台で活躍する俳優たちが多数出演。作品テーマが「音楽」で、劇中、登場人物が歌う場面が多かったとはいえ、ひとつのドラマにここまでミュージカル俳優が集結した例は他にない。それも全員、大舞台での主役やヒロインを担える人材である。
中でも多くのドラマ出演歴を活かし、抜群の安定感をもって、華と泥、両方の芝居を魅せた佐藤久志役・山崎育三郎と、それまでのクールなイメージを覆す振り幅の大きい演技で話題を呼んだ“ミュージックティ”こと御手洗清太郎役の古川雄大、そして、劇中では歌唱場面がないにもかかわらず、最終回の“カーテンコール”で「イヨマンテの夜」を圧倒的な表現力で歌って視聴者を驚かせた岩城新平役・吉原光夫の3人は特に強い印象を残したのではないだろうか。
主演クラスのミュージカル俳優の場合、早いと3年前から舞台のスケジュールが決まる上に、稽古開始からすべての公演が終了するまで半年程度かかる作品もあり、ドラマの撮影に参加するのが厳しい現状がある。そんな中、朝ドラというお化け枠にこれだけのミュージカル俳優が登場したのは快挙である。
演劇人が底力を見せつけた“半沢劇場”
また、ミュージカル俳優陣に負けないインパクトを見せつけたのが歌舞伎俳優たちだ。7月から9月放送『半沢直樹』(TBS系)続編に出演の市川猿之助、尾上松也、片岡愛之助、香川照之(市川中車)の4人はまさに八面六臂の大活躍。
猿之助演じる伊佐山の「詫びろ、半沢!」攻撃や、いつの間にか「直樹」呼びとなっている黒崎(片岡愛之助)のパワーアップ感に加え、いつ飛び出すかわからない大和田役・香川照之の飛び道具的アドリブに視聴者は湧いた。大和田が半沢(堺雅人)ににじり寄り、自らの首を切る真似をしながら「お・し・ま・い DEATH」と目をむく場面はドラマ史に残る名(迷?)シーンだ。
歌舞伎俳優とドラマ『半沢直樹』のマリアージュが成功した大きな理由が「勧善懲悪のストーリー」と「振り切った感情の演技」という両者の共通項。さらに今作では4人の歌舞伎俳優に加え、主演の堺雅人をはじめ、キャストのほぼ全員が舞台出身の俳優か、積極的に舞台に出演しているプレイヤーばかり。
特にテンション高止まりの演技でSNSをザワつかせた曾根崎役の佃典彦や、謎のIT社長・平山役の土田英生といった東京以外に本拠地を置く演劇人の活躍や、クライマックスでリアル師弟対決を見せた柄本明(箕部役)と江口のりこ(白井役)の演技を越えた気迫など、さまざまなジャンルの板の上で鍛えられた俳優陣のポテンシャルが作品全体の熱量を上げていたのは間違いない。まさに演劇人が底力を見せつける「半沢劇場」であった。