『エール』は“元気を届ける”朝ドラの本質を突いた作品に 吉原光夫が“岩城さん”として歌った意図

『エール』から手渡されたたくさんのギフト

 まさに“カーテンコール”だったーー。

 第119話が実質の最終回となったNHK連続テレビ小説『エール』。「海が見たい」と病床で語る音(二階堂ふみ)の痩せた身体を支え、ベッドから立ち上がらせる裕一(窪田正孝)。そこから数歩、歩んだふたりの目の前に広がったのは音の父や母も眠る豊橋の青い海だ。

 出会った頃のはつらつとした姿に戻り、海岸を駆け回るふたり。裕一は言う「音に会えなかったら、僕の音楽、なかった。出会ってくれて、ありがとね」。 音も「私も、あなたといられて幸せでした」と返す。それは旅立つ音と彼女を見送る裕一が、夢の中で最後に交わした言葉にも思えた。ふたりが去った砂浜に残された古いオルガン、波の音、画面に広がるタイトルバック……。

 が、ここで終わらないのが『エール』である。本人としてふたたび現れた窪田正孝と二階堂ふみは、とびきりの笑顔で“カーテンコール”の予告をおこない、物語の幕を明るく下ろした。

 そして迎えた『エール』第120回。「エールコンサート」と銘打たれたオーラス回では、音楽に縁のあるキャスト陣がNHKホールに集結。裕一のモデル、古関裕而さん作曲のナンバーを歌いつなぐという、朝ドラ史上類を見ない15分となった。

 “ミュージックティ”としてキレっキレの芝居を魅せた御手洗清太郎役の古川雄大は、シックなタキシードスタイルで「福島行進曲」を歌い、劇中では絡みのなかった千鶴子役の小南満佑子と藤丸を演じた井上希美は本物の双子さながらに「モスラの歌」を聴かせる。

 また、本作で映像での評価をさらに高めた久志役の山崎育三郎は「船頭可愛いや」をソロで歌い、劇中、甲子園球場での独唱が多くの人の心を打った「栄冠は君に輝く」を藤堂先生こと森山直太朗とデュエット。

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 さらに、焼け跡で祈りの讃美歌を捧げた光子役の薬師丸ひろ子が「高原列車は行く」で美しいソプラノを響かせ、ドラマ内では歌うシーンのなかった藤堂の妻・昌子役の堀内敬子が「フランチェスカの鐘」で持ち前の歌唱力を見せつける。

 そんな実力派ぞろいの「エールコンサート」で、特に視聴者を驚かせたのが関内家の馬具職人・岩城を演じた吉原光夫の「イヨマンテの夜」だ。劇中では鼻歌を口ずさんだり、光子に「岩城さん、歌が上手いのよ」といわれたことはあるものの、吉原が演じた岩城は「音楽」にまったく縁のない役どころ。その彼がいきなり会場を震わせるような強く深い声であの難曲を歌ったのだから、度肝を抜かれた人が多いのも無理はない。放送終了後、Twitterのトレンドに「岩城さん、吉原光夫、イヨマンテの夜」の文字が躍ったほどである。

 さて、あなたは気づいただろうか。ほとんどの出演者がドレスやスーツ、曲に合わせた衣装とそれぞれの個性を打ち出したファッションで参加する中、吉原は岩城役の扮装そのまま、作業着にはちまき、ひげまで生やした姿でNHKホールの舞台に立っていたことを。

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