みくりと平匡ならどう生きる? 那須田淳P×金子文紀監督に聞く、いま『逃げ恥』を届ける意義
「いろんな人がこの世にいていいんだ」を『逃げ恥』らしく発信したい
――改めて、おふたりの魅力を教えてください。
那須田:どんなご家庭でも、結婚して生活がスタートしたら、いろいろなことが起こるわけじゃないですか。そういうのを、彼らなりにクリアしていく姿が魅力的だったのが『逃げ恥』だと思うので。成長していくお芝居が素晴らしく、そうした面で年齢を重ねた姿というのも含めて魅力的だなと改めて感じました。
金子:やっぱりおふたりが持つ謙虚さや誠実さ、相手に対する誠意、もともと他者に対して好意的に向き合おうとしてる姿勢というか、ご本人が持っている人柄の良さが、みくりと平匡にすごく出ていると思うんです。だから、みんな共感してくれるんだろうなと、連続ドラマをやりながら感じていました。基本的に日本人って、やっぱり真面目で勤勉な人が多くて、でもそういう人たちってなかなかドラマにはなりにくいんです。でも、その真面目で勤勉な日本人を、あのふたりが誠実に演じたことに、あれだけ多くの支持に繋がったんじゃないかと。新垣結衣と星野源という超人気者だけど、やってることがすごく地味っていうのも、いいなと思います。
――連続ドラマのときには、沼田さんを演じる古田新太さん、日野さんを演じる藤井隆さんのアドリブ合戦で、星野さんが笑いをこらえるのに大変そうでしたが、今回もそうしたシーンはありましたか?
金子:沼田さんは今回、かなりセリフ量が多くて、前回ほど余裕がなかったですね。変顔はよくしてくれましたけど(笑)。対して、今回は日野さんの暴走感がすごかったですね。ずっとハイテンションで。なので、3人が絡むシーンは、相変わらず楽しい雰囲気に仕上がっているので、ぜひ期待して見ていただければと思います。
――石田ゆり子さん演じる百合ちゃんも多くの視聴者から支持されたキャラクターですが、今回もキーとなってきますか?
金子:そうですね。百合ちゃんは好きな仕事に生き、子を持たないという選択をしてきたわけですが、改めて人生を真正面から考えるきっかけがやってきます。そのきっかけ自体は残念なことではあるのですが、最終的には本人の希望通り生きているのだから悲しいことではない。でも、描き方によっては同情を誘う話にもなりうる。そうすると、きっと似たような境遇にいる女性からしたら「放っといてよ」ってなってしまうな、と。どうやって百合ちゃんの話を描いていくかは、最後の最後まで悩んだところです。でも、とにかく「湿っぽくしたくないね」というのが、スタッフ陣も演じる石田さんも共通して思っていたところで。きっと泣ける音楽をかけて、涙する場面にするのは手っ取り早いんですが、それをやったら『逃げ恥』じゃなくなるよなって。それを見誤らないようにしようね、と言いながら撮影をしました。それでも、似たような境遇の女性から「私の生き方をネタにしないでよ」みたいに思われたらどうしようっていう思いもまだあるので。そこが今回のドラマとしても一番の勝負所だと感じています。
――今回、西田尚美さんと青木崇高さんが新キャストとして参戦されますね。
那須田:西田尚美さん演じる、百合ちゃん(石田ゆり子)の高校時代の同級生・花村伊吹も、青木崇高さん演じる平匡の新しい職場の上司・灰原慎之介も、原作に登場しているキャラクターです。原作を読んでいるときから、どういう方がいいのかなと思っていたんですが、西田さんなら、実際の旧友のような関係性をナチュラルに演じられるのではないかと思いました。青木さんは「ひっかきまわしてやろうと(笑)」とコメントを寄せてくださっていたように、悪気なく平匡の心を大いに乱してくれました。
――2人の新しいキャラを通じて、複雑な社会が『逃げ恥』らしく軽やかに描かれるのではと期待しています。
金子:そうですね。『逃げ恥』って、「いろんな人がこの世にいていいんだ」「多様な価値観を受け入れよう」っていうところから始まってる話だと思いますので、当たり前のことのようにLGBTの話も出てきますし、「男とは」「女とは」をまっすぐに話し合う場面もあります。それぞれの思いがすんなりと受け入れられて、心が開放されていく姿を描くのが『逃げ恥』らしさ。社会の中にある様々な問いに対して、特別なことじゃなく身近なこととして感じてもらえるように、そして説教くさくならずできるだけ気楽にニコニコしながら見てもらえるように、意識して作っています。