『おちょやん』杉咲花はなぜ父親を見放せない? 8年前の満ち足りない気持ち

『おちょやん』なぜ父親を見放せない?

 テルヲ(トータス松本)と8年ぶりに再会したものの、「一緒に暮らそう」という言葉には裏があった。千代(杉咲花)はまた身売りされようとしていたのだ。連続テレビ小説『おちょやん』(NHK総合)第18話では、借金の取り立て屋から嫌がらせされる千代が岡安を出る決心をする。

 突然、岡安に押し掛けたのは借金の取り立て屋だった。取り立て屋たちは、テルヲがこしらえた借金の肩代わりのため、千代が岡安を辞めるよう仕向ける。座敷で酒を飲んで暴れたかと思えば、昼間から店の周りをうろつくようになり、さらには座布団が切り裂かれたり、注文していない弁当が大量に届くなど嫌がらせはエスカレート。岡安の客足も遠のく事態となってしまった。いつまでも続く嫌がらせは、取り立て屋の思惑通り、千代に肩身の狭い思いをさせる。千代はとうとう、岡安を去ることを決意するのであった。

 千代が、テルヲから必要とされることで沸き起こる感情は“煩わしさ”だけではなかった。一平(成田凌)にも漏らしたように、いつも心の何処かで、父から求められることに“嬉しさ”を感じていたのだ。しかし今の千代は、テルヲが借金のカタに千代を身売りに出すことを知っている。シズ(篠原涼子)たちを前に岡安を辞める挨拶をした際、清々しい表情で「あんな父親だが見捨てられない」と語った千代だが、真実を知っている今も父から求められることに愛情を見出せるのであろうか。本当は追いかけてきて欲しかった8年前の満ち足りない気持ちが、今も千代の心をぐらつかせる。視聴者としては、千代が父への思いを断ち切り「自分が本当にやりたいこと」を見つけ、その道に進んでほしいと願ってしまう。

 一方で、天海天海一座の一平は芝居に身が入らない日々を過ごす。須賀廼家万太郎一座が人気を博す中、なかなか追いつけないことに焦りを募らせる須賀廼家千之助(星田英利)は荒れるようになっていた。その矛先はやる気のない一平に向く。一平もまた、芝居、そして亡き父親の存在と向き合えないまま芸妓遊びに逃げていた。そんな一平に喝を入れたのが、幼い頃からの一平を知るハナ(宮田圭子)だった。かつてハナは、岡安に残ることを決めた千代を連れて天海天海一座の芝居を観に行った時「ここがあの子の生きる場所」と千代に話していた。密かに、一平が芝居の道に打ち込めるよう見守っているのだ。芝居に対しては消極的な一平だが、千代のことでテルヲに話をつけにいくなど心優しいところもある。成田凌はそんな一平を、だらしなくも憎めないお茶目さで表す。時に瞳の奥に携える寂しさが、早くに父を亡くし、芝居から逃げる自分への後ろめたさとして悲しく光るのであった。

■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/

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