『おちょやん』の“語り”がドラマにもたらす効果 朝ドラ常連・桂吉弥の暖かな目線を堪能
『半分、青い。』の風吹ジュン、『なつぞら』の内村光良、『まんぷく』の芦田愛菜、『エール』の津田健次郎……これは歴代のNHK朝ドラ作品と“語り”担当者のセットだ。前者2作品は主人公の亡き家族というポジションを作中で演じた人物が“語り”を担当し、『まんぷく』の芦田は最年少での抜擢が注目された。記憶に新しいのは前作『エール』での声優・津田のエモい“語り”と、本人が急遽作中にも登場することになり話題を呼んだ。
半年間、しかも毎朝耳にし、忙しい時間帯に物語の理解や把握を補完する役割を担うことから朝ドラの“語り”はストーリーや登場人物と視聴者の橋渡しをする特異な存在だ。時に登場人物の肩を持ったかと思いきや、視聴者の疑問を代弁し登場人物を突き放して突っ込んでみせたり、双方に寄り添う。時や場所といった客観的な事実だけでなく、登場人物の心情まで語るシーンもあり、かなりの表現の幅を要する。
『おちょやん』(NHK総合)での“語り”もまた特徴的だ。上方演劇界が舞台ということもあり、黒衣が“語り”を担当する仕立てになっている。黒衣とは読んで字の如く黒づくめの特殊な衣装を身に纏い、観客に見えないという約束事の下に舞台上に現れ芝居の手助けをする人のことを指す。作中では基本的には“声での出演”となるが、冒頭には画面上にも出演し正に物語の始まりを知らせる重要な役どころまで担っていた。
確かに、朝ドラの鉄板とも言える「女性の一代記」モノでは、近しい家族が主人公を近くで見守るという立ち位置で“語り”に入ることがしばしばあるが、千代(杉咲花)の場合には彼女に近しい家族という存在が不在だ。今は亡き母が彼女の心の支えとなっておりそれに当たるだろうが、あまり多くを語られてはいない存在である上に、亡き母目線から語られてしまうと、幼くして母を亡くし父親に振り回され学校にも行けずに働きに出されていた不憫な身の上がどうしたって際立ち、今のような仕上がりにはなっていなかっただろう。