『#リモラブ』が考察するそれぞれの“ディスタンス” 顔の見えないやりとりの先に何がある?
さらに、このドラマの作り手は視聴者との「距離感」も心得ていると感じる。美々の助手・八木原(高橋優斗)が芝居の途中でカメラ目線に切り替えて視聴者に語りかけ、物語のナビゲーターを務めるのがおなじみとなっているが、この一見、なつかしのトレンディドラマ的手法は、「これはフィクションですよ」というサインを視聴者に送る役割を担っている。未曾有の事態に日常を奪われ、自覚・無自覚に関わらず心を削られ、傷ついている視聴者がたくさんいる。そのうような視聴者が、コロナ禍を舞台に描かれたドラマの世界に引っ張られすぎることは、ある種の危険を伴うことも想定される。だからこそ現実とフィクションの境界線をきっちりと引く。そんな作り手の気遣いが感じられる。劇中で「コロナ」という言葉は使わず、「新型ウイルス」という表現に留めているのもしかりだ。
表向きのパッケージをラブコメという明るい仕様にしているのも、そういった意図だろう。しかし、あくまでもフィクションであることはわきまえたうえで、第1話で「私は大丈夫」と自分に言い聞かせ気丈に任務にあたってきた美々が一人になってふとした瞬間に心が折れそうになるシーンが胸に迫った。「ポップなラブコメ」を装いながらも、きわめて今日的で繊細な心模様を描くこのドラマの本懐が垣間見えた場面だ。
勘違いやすれ違いから発するコメディシーンにも、不思議な緊張感が漂っている。それはやはり、笑って何気ないふりをして日常を過ごすドラマの中の彼らも、そして観ている私たちも、薄皮一枚隔てた下には「漠然とした不安」があるからだろう。それでもなんとか生きていく。青林と五文字のじゃれあいや、八木原・栞(福地桃子)のバカップルのイチャコラ、富近先生(江口のりこ)と八木原のムーンウォークにさえ、名状しがたい泣き笑いの空気と、そして尊さを感じてしまう。
SNS、古くはメールやインターネットを介して始まるラブストーリーは、これまでにも数多くあった。そのどれもが概ね、朝成(及川光博)が息子の保(佐久間玲駈)の自由研究と自らの離婚の経験談を重ねて語った「結局、本当の愛は会わなきゃ育てられない」が結論だったのではないだろうか。しかしどうやら『#リモラブ』は視点が少し違うようだ。文字だけの、それも他愛のない会話の積み重ねにこそ、発する人の本音が現れるし、素性も属性もまったくわからない同士だからこそ語れることがあり、心が寄り添いあうこともある。世の中がパニックになり複雑にもつれた事柄が横たわる一方で、反面、至極シンプルで本質的なもの、SNSでの顔の見えないやりとりが寓意する「あらゆるものを削ぎ落とした先に残る何か」を、このドラマは描き出そうとしているのではないだろうか。
先週放送された第5話では美々が、青林と檸檬を同一視したうえで「好きだ」と認識し、今夜放送の第6話では美々が草モチであることをカミングアウトする。折り返し地点を迎えた物語が今後どんな結末を迎えるのか、見守りたい。
■佐野華英
ライター/編集者/タンブリング・ダイス代表。ドラマ、映画、お笑い、音楽のほか、生活や死生観にまつわる原稿を書いたり本を編集したりしている。
■放送情報
『#リモラブ 〜普通の恋は邪道〜』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜23:00放送
※第7話は12月2日放送
出演:波瑠、松下洸平、間宮祥太朗、川栄李奈、高橋優斗(HiHi Jets/ジャニーズJr.)、福地桃子、渡辺大、江口のりこ、及川光博
脚本:水橋文美江
演出:中島悟、丸谷俊平
プロデューサー:櫨山裕子、秋元孝之
チーフプロデューサー:西憲彦
制作協力:オフィスクレッシェンド
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/remolove/
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