アカデミー賞有力候補『ノマドランド』 MCU『エターナルズ』抜擢の監督らが明かす製作の裏側
今作では、ジャオ監督は編集も担当していることについて「我々も、このコロナ禍で隔離されていたの。当初は、私だけで編集をやるつもりだった。私はプロデューサーや今作の配給会社サーチライト・ピクチャーズととても親密に作業を進めていて、彼からもらったノート(編集作業のアドバイス)はとても役に立った。そして、そんな編集作業を約2〜3ヶ月行なったわ。おそらく早い方だと思う。なぜなら、3作続けて同じ撮影監督ジョシュア・ジェームズ・リチャーズと仕事をしたため、どんな編集スタイルで撮影するのか、どういう箇所をカバーするのか、お互いが理解していたの。ただ、私自身は映画学校に通ったことがなかったため、編集スタイルは、撮影手法によって(事前に)決めていたわ」。
また、作曲家ルドヴィゴ・エイナウディの曲を本作に組み込んだのかについては「エイナウディとは、直接仕事をしたことがないの。いつか機会があれば彼と組みたいわね。実は私が憧れている映画監督の多くは、すでに作曲された音楽を使用していて、(今作は)私もそのアイデアで行こうと思った。そこで、自然にインスパイアされた美しいクラシックの音楽にしようと思ってインターネットで探していた際に、エイナウディの楽曲『Elergy for the Actic』のミュージックビデオを、YouTubeで見つけたの。そのビデオでは、彼が大西洋の上に浮かぶプラットフォームでピアノを弾いている。唯一無二の素晴らしいピアノの演奏だったし、彼の後ろの山から氷が崩れ落ちているのが見えた。その瞬間、私はそこに何かを感じ取ったの。それから、彼のアルバム『セブン・デイズ・ウォーキング』を聴いたわ。その曲を聴いているときに、映画の主人公ファーンとエイナウディは、2つの全く異なった世界で、異なった人生体験をしてきたけれど、彼らの自然へのつながりや自然の中で自分を発見した方法は、人間として繋がっているように思えた。だから、その音楽がこの映画に合っていたの」と決断した理由をジャオ監督が説明した通り、映画内では広大な土地に優雅な音楽が流れている。
また、「サプライズのシーンは沢山あったわ」とジャオ監督が語ると、スピアーズは「ジャオ監督のアイデアと脚本の素晴らしさが、ノンプロの俳優に時間的な余裕を与え、彼らのサプライズを引き起こした。そういった構成だったからこそ、サプライズが起きたときに、映画内に組み込むことができたんだ」と振り返り、そのせいもあってか、撮影には4ヵ月〜5ヵ月も費やしたそうだ。
映画のロケーションも魅力の一つだ。ジャオ監督はどのように選考したのだろうか。「私たちは、アメリカ西部を舞台にしたいと思っていたの。おそらくユタにあるグランド・キャニオン以外は、ほとんどのアメリカの西部をカバーしてきた。それと、原作者のジェシカの本に含まれている季節ごとの仕事日程にも、ロケーションは基づいているわ。そのほかに、アリゾナ州のクォーツサイトや個人的に好きなサウス・ダコタを含めたわ」と語る。映画内では雪に覆われた寒さの厳しい場所から、息を飲むような壮大で、綺麗な風景までが映し出されている。
キャンピングカーに過去の思い出を詰め込み、車上生活者を選択した「現代のノマド(遊牧民)」のファーンが、過酷な季節労働の現場を渡り歩く姿をドキュメンタリー調で捉えた本作。このコロナ禍において、型にはまらない、人に左右されずに自分の生き方を貫く、新たな生き方の指針になるかもしれないと感じさせる作品だった。
■細木信宏/Nobuhiro Hosoki
海外での映画製作を決意し渡米。フィルムスクールに通った後、テレビ東京ニューヨーク支局の番組「ニュースモーニングサテライト」のアシスタントとして働く。現在はアメリカのプレスとして働き13年目になる。
■公開情報
『ノマドランド』
2021年1月、全国公開
監督:クロエ・ジャオ
出演:フランシス・マクドーマンド、デヴィッド・ストラザーン、リンダ・メイほか
原作:『ノマド:漂流する高齢労働者たち』(ジェシカ・ブルーダー著/春秋社刊)
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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