MCUは本格的にマルチバースへ? 原作から考える『ワンダヴィジョン』予告編に散りばめられた謎
9月21日、あるドラマの予告編が解禁となり、アメコミ映画ファンの間で大きな話題となりました。『ワンダヴィジョン』です。本作は『アベンジャーズ』系の映画群、いわゆるマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の1本です。MCUは基本劇場公開される“映画”が基本ですが、今年からDisney+(ディズニープラス)で配信される“ドラマ”もMCUを構成する重要なパーツと位置づけられました。
というわけでもともと期待されていた『ワンダヴィジョン』ですが、様々な事情により、より多くの注目を集める作品となってしまいました。それは本作が今年リリースされる唯一のMCUであり、MCUフェイズ4のキックオフとなってしまったからです。“なってしまった”と書いたのは、もともと今年のMCU第1弾は5月1日に日米同時公開される『ブラック・ウィドウ』でした。昨年の『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』でMCUのフェイズ3(MCUはフェイズとよばれる大きな区切りを設けています)が終了し、新たなステージとなるフェイズ4はこの『ブラック・ウィドウ』から始まる予定だったのです。ところがコロナ禍によりなんと公開が2021年の5月7日まで延びた。
一方、ディズニープラスで配信されるMCUドラマの第1号は『ファルコン&ウィンター・ソルジャー(原題)』の予定でした。これもコロナ禍で撮影が中断し2020年内の配信が不可能になった。というわけで一気に『ワンダヴィジョン』が筆頭作になってしまったのです。
そう考えると、9月21日にディズニーが本作の予告編をリリースしたというのは実にうまいタイミングでした。この日エミー賞が発表され、DC系のアメコミドラマ『ウォッチメン』が11冠に輝きました。その1週間前にはAmazon Prime Videoでいま人気のアメコミ原作ドラマ『ザ・ボーイズ』のシーズン2が配信開始。アメコミドラマがホットな話題になっている最中での予告編リリースです。さらにこの時期『ブラック・ウィドウ』の公開が来年になるらしいとの噂がながれていた時期で、ファンの間で“今年はMCUが観れない”との悲観論が広がっていた時期です。なので、なおさらMCUドラマ『ワンダヴィジョン』が今年リリースされるというのはとてもハッピーなニュースでした。(※以下、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』のネタバレを含みます)
さて、この『ワンダヴィジョン』ですが、予告を観る限りかなりユニークな作品に仕上がっていそうです。まず本作の“ワンダヴィジョン”とは、ワンダとヴィジョンという2人のヒーローを描いた作品です。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』を観た方ならワンダとヴィジョンが恋人同士というのはもうおわかりだと思うのですが、納得いかないのは「あれ? ヴィジョンって確か死んだハズ」ですよね。
なぜヴィジョンが生き返っているのか? 実は原作コミックにおいてワンダことスカーレット・ウィッチの能力に“現実改変能力”というのがあり、今とは違う現実を作り出す力があるのです(あらゆる確率をコントロールして、色々な可能性の世界を生み出すことができる)。そこでワンダとヴィジョンは結婚し双子の子どもをもうけています。ヴィジョンは本来アンドロイドですから、人間との間に子どもを持つことができない。けれどワンダはこの“現実改変能力”を使ってヴィジョンとの結婚生活に成功するのですね。このコミックの設定が活かされるのだとすれば、ワンダはその力を使って死んだはずのヴィジョンを生き返らせ、彼との幸せな結婚生活という“もう一つの現実”を作り出したのかもしれません。
この予告では、ワンダとヴィジョンの結婚生活が楽しく描かれていますが、ちょっと変ですよね。いわゆる昔のアメリカのコメディドラマ(シットコム風)です。『奥様は魔女』とか『ファミリータイズ』のようです。
そう、本作がユニークなのは、こうしたコメディドラマのテイストを盛り込んでいることです。MCU初のシットコムというよりも、ワンダが作り出した“現実”がなぜかシットコムっぽい世界だったと解釈すべきでしょう。この予告を観た時になぜ『ワンダヴィジョン』が年内リリースできたかよくわかりました。『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』は野外・海外ロケが多そうですが、『ワンダヴィジョン』はシチュエーションコメディだからスタジオにセットを作れば撮影ができてしまう。コロナ禍では『ワンダヴィジョン』の方が完成しやすかったのでしょう。
さて、この『ワンダヴィジョン』がこれからのMCUに及ぼす影響ですが、3つのことが考えられます。