『これっきりサマー』が描いた“高校生の特別な夏” 『野ブタ。』に共通する木皿泉の“優しさ”

『これっきりサマー』が描いた“特別な夏”

 また、「夏フェス」のお返しとして、香は蝉の鳴き声を全身に浴びながら、青空の下、「今年の甲子園」仮想実況をする。

 おそらく相当聞き込んだのだろう。「どこがいいのかさっぱりわからない、異星人」の言葉(野球実況)を、淀みなく流暢に繰り出す香もまた、「野球が、薫の戻る場所だと知っていて、そこに帰そうとしている」のだった。

 帽子を目深にかぶり、うつむく薫はそこで初めて「俺、ホントは甲子園行きたかった」と呟く。香は言う。

「みんな知ってるよ。私も知ってるよ。行けなくて一番悔しいのは、藤井薫だって」

 客観的には「かわいそうな高校生たちの、かわいそうな夏」。だが、「これっきり」には、「これに代わる夏なんてない、特別な夏」という意味も込められている。

 思えば、『野ブタ。』でも、こうした「優しい視点」が提示されていた。いじめられっ子の野ブタ。(堀北真希)が仲間を得て、人気者になっていく一方で、人気者でイケていた修二(亀梨和也)が、ふとしたきっかけから孤立しそうになる。一本の柳の木が示唆しているように、別の場所・状況に移ることにより、別の存在に変わりうる不安と孤独を誰もが抱えつつ、その一方で、どこでも、どうにでも生きられる希望が描かれていたのだ。

 これはコロナ禍の現在の私たちの状況にもよく似ている。孤独で苦しく「かわいそうな夏」も、別の視点から見たら「これっきりの夏」で、かけがえのない意味があるのかもしれない。閉塞した現在の状況に、木皿泉の描く優しさが沁みる作品だった。

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■放送情報
大阪発ショートドラマ 『これっきりサマー』
NHK総合にて、連続5話放送
8月17日(月)~21日(金)20:42〜(※第1~3話は2分、4・5話は3分) (関西地域)
[再放送]同日23:40~(※19日(水)は再放送なし、20日(木)に第3・4話をまとめて再放送)(関西地域)
【まとめ版】
8月22日(土)13:50~14:00(10分まとめ版) (全国放送)
8月29日(土)18:35~18:45 (10分まとめ版) 、8月30日(日)11:00~11:15(15分特別版)(関西地域)
作:木皿泉
出演:岡田健史、南沙良、一木美貴子、村上ショージ
制作統括:内田ゆき
演出:泉並敬眞
制作・著作:NHK大阪拠点放送局
写真提供=NHK

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる