脚本家・木皿泉は異例の夏をどう描いた? 『これっきりサマー』演出・泉並敬眞に聞く制作の経緯

『これっきりサマー』演出が語る制作の裏側

 例年にない長い梅雨が明けた後にやってきたのは、全国各地で40℃にも迫るという猛暑の日々。まさに夏まっさかりの8月現在だが、花火大会も、甲子園大会も、夏の風物詩だったものが今年は一切ない状態となっている。新型コロナウイルスの影響は依然として続いており、今までの価値観が大きく一新されようとしている。

 そんな状況の中、ドラマ界では“いまだからこそできること”として完全リモート撮影による作品などが生み出されてきた。特にNHKでは、『今だから、新作ドラマ作ってみました』『ホーム・ノット・アローン』『リモートドラマ Living』『JOKE~2022パニック配信!』と名優、名脚本家たちによる多彩な作品が生み出された。森下佳子、坂元裕二、宮藤官九郎らがコロナ禍をドラマに落とし込む中、もっとも新作が期待されていたと言っても過言ではない脚本家が木皿泉だ。

 再放送でも話題となった『野ブタ。をプロデュース』(日本テレビ系)をはじめ、『すいか』(日本テレビ系)、『Q10』(日本テレビ系)、『富士ファミリー』(NHK総合)など、名作を生み出し、人間や社会を鋭い視点で描き出してきた。そんな木皿の待望の新作が、コロナ禍の今を描いたドラマ『これっきりサマー』だ。夏の甲子園への出場と夏フェスへの参加、それぞれかけがえのない青春の1ページを奪われてしまった2人の高校生が出会い、ソーシャルディスタンスを保ちながらも不器用に近づいていく模様が描かれる。

 8月22日に全国放送される「まとめ版」を前に、本作の企画・演出を務めた泉並敬眞氏に話を聞いた。

企画は木皿泉への手紙から

ーー多くのリモートドラマが作られていた中、マスクをして、ソーシャルディスタンスを取っての今のコロナ禍を描いた『これっきりサマー』が発表されたときは驚きました。企画はどういった経緯で?

泉並敬眞(以下、泉並):演出に参加した『ホーム・ノット・アローン』の制作が終わった頃、リモートドラマでできる限界を感じていました。そんな状況の中、6月1日に全国一斉シークレット花火が打ち上げられました。感動したと同時に、これまで当たり前にあると思っていた7月〜8月の花火大会が今年は中止という事実を突きつけられました。同じ頃、夏の甲子園大会の中止が発表されました。このニュースを受けて、コロナとの長い戦いが続くんだなとまじまじと実感したんです。また、“夏が潰れる”ということを直感的に感じました。当たり前にあった夏がない、楽しみがなくなってしまったときに、自分に何ができるかを考えました。ドラマを作るときは半年〜1年前から準備をしていくのが通例ではあるのですが、『ホーム・ノット・アローン』のようにショートドラマなら1カ月程度で企画から制作まで行うことができることが分かったこと、視聴者の方からも大きな反響をいただいたこともあり、同じ枠でドラマを作ろうと。緊急事態宣言が明けて、さまざまドラマ作品が各局で放送されるようになりましたが、コロナ禍以前のお話も多かったんです。それなら、マスクやソーシャルディスタンスといった今のリアルが反映されたものを作りたいと思ったんです。

ーーそして驚いたのが、脚本を木皿泉さんが手がけることでした。

泉並:実は私も木皿さんと面識があったわけはないんです。いち視聴者として木皿さんのこれまでの作品が大好きだったこと、何より木皿さんが現在のコロナ禍を受けてどんな物語を描くのか、それを観たいという純粋な思いがありました。なので、突然ではあったのですが、どんなドラマが作りたいかということ、今年の夏が潰れてしまう中でちょっとでも希望を乗せられるものという思いを書き綴って、ダメ元で手紙を送ってみたんです。

ーー企画からの時間を踏まえるとすぐに木皿さんから返事が来たと。

泉並:そうなんです。手紙を送ってすぐに電話をいただきました。ソーシャルディスタンスドラマを作りたいという思いを伝えて仕上げてくださったのが本作でした。

ーー仕上がった脚本を読んでどんなところに驚きましたか?

泉並:今の高校生の青春物語として仕上がってきたことにまず驚きました。木皿さんの脚本の特徴と言えると思いますが、視点が人間というよりもどこか“宇宙的”なんですよね。いろんな我慢を強いられていることに対して、水守香(南沙良)が「大人の都合なんじゃない?」と藤井薫(岡田健史)に問いかけると、薫は「地球の都合だよ」とサラリと返したり。甲子園に出場できなくなり、周りから「かわいそう」とレッテルを貼られることを薫が疑問に思うことについてもガツーンとやられたものがありました。私も高校球児たちを見て、「かわいそう」としか思い込んでいなかったなと。私たちが勝手に思い込んでいるだけで、当事者の彼等はもっと違う思いを抱いているかもしれない。木皿さんの脚本はそんな視点を提示してくれました。そして、タイトルです。いろんなものが中止状態の夏は今年だけでいいと思っているんですが、私たちにとっても、高校生たちにとっても、こんな夏でも“たった一度の夏”であることは間違いないわけです。嘆くだけではなく、受け入れる意味合いも含んだ『これっきりサマー』というタイトルにしびれました。実はこの題字も木皿さんの手書きなんです。

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