医者と看護師、患者たちの個性が光る Netflixドキュメンタリー『スキン・ディシジョン』が面白い
「私はマッドサイエンティストで彫刻家」こんな自己紹介、漫画やアニメ以外にあるだろうか? アメコミの悪役以外にいるだろうか? ところがどっこい、いるのである。その人物は、確かにアメリカに実在するのだ。Netflixオリジナルの『スキン・ディシジョン:お肌の悩みをプロが解決』は、皮膚の治療や美容整形を取り扱うドキュメンタリー。整形番組はバラエティの定番だが、本作は治療を担当する2人の医者と看護師、患者たちの個性によって、面白い内容になっている。
この番組の主役は形成外科医のナザリアン先生と、看護師で栄養士の資格も持つ肌の専門家ナース・ジェイミー。それぞれ専門分野は異なるが、子持ちの実業家であること、そして「圧の強さ」と「頼もしさ」は共通している。ナザリアン先生は、少女時代にイランから家族とアメリカに亡命、修行の末に開業医まで上り詰めた叩き上げのドクター。「手術は最終手段」や「このケースの場合、私が治せるのは60%まで」とメスを持つ者の責任を感じさせる一方で、いざメスを握れば目的とする「自然な仕上がり」を完遂するプロフェッショナルだ。そんなナザリアンの相棒は金髪のナース・ジェイミー。永遠の29歳を自称する前のめりな人物だ。冒頭の振り切った自己紹介も彼女である。セレブ御用達の肌のスペシャリストであり、世界に何台かしかないような機械でビシバシ肌を綺麗にしていく。ニキビの菌に向かってレーザーを当てながら「死ね、コノヤロー」と発言するなど、ナザリアン先生よりマッドな面が目立つ。
そんな2人がいろいろな人の悩みを解決していくのだが……1人目の患者の相談内容は「元夫が自分に何発も銃弾を撃ち込み、子どもを手にかけた挙句に目の前で自殺した。弾痕と、その時の緊急手術の形跡、そして元夫の名前が入ったタトゥーを消したい」と、いきなりヘヴィすぎる相談がやってくる。他にも「飲酒運転の車にはねられて、顔面が変形した」「モデルをやっていたら、顔面を刃物で切りつけられた」など、理不尽な目に遭った患者たちが続々と登場。さらに、こうしたトラウマを負った人以外にも、ニキビに悩む高校生や、四つ子を妊娠した時に体形が崩れた女性など、様々な苦悩を抱えた患者がやってくる。素人目には幅が広すぎるが、そこはさすがのナザリアン先生とナース・ジェイミー。患者たちを分析して、1人1人に最適な治療プランを練っていく。個人的に、この「作戦会議」が一番の見どころだったように思う。
普段は「あなたの髪の毛は地毛?」「私はナース・ジェイミー。すべて幻、それが私よ」などと軽口を叩き合う2人だが、仕事になると顔つきが一変。お互い積極的に自分の意見を出し、必要なら退き、相方に任せる。患者を第一として、お互いのスキルを尽くし合う2人の姿は、まさしくプロ同士のつばぜり合い。背中で語る仕事の流儀は、見ていて単純にカッコいい。さらに特筆すべき点は、ナザリアン先生もナース・ジャイミーも、「患者の提案以上のもの」を提案することが非常に多いことだろう。「あなたはこう言ってるけど、こうした方がもっと良くなる」と、患者の想定を超える方法を次々と提案するのだ。この顧客が望んでいるものを適切に捉えたうえで、さらにより良いものを提案するスタイルは、2人がビジネスマンとして成功を収めていることも関係しているだろう。こうした2人の積極的な姿勢に、多くの患者たちは少し戸惑う。しかし、2人の真摯な姿勢と、治療の確かな効果を実感して、少しずつ2人を信頼し、やがて容姿へのコンプレックスからも自由になってゆく。治療を終えたあとの患者たちは、皆一様に晴れやかな顔を見せてくれる。2人の圧の強さは、頼もしさの証でもあるのだ。なお本作の場合は、日本語吹き替えの好演も称えたい。前のめり気味のナース・ジェイミーを演じる土井真理さん、そんなナース・ジェイミーに対して一歩引いたスタンスで接するナザリアン先生を演じた永吉ユカさん。2人とも上手くキャラクターを掴んでいたように思う。