“禁欲”ルールのリアリティーショー『ザ・ジレンマ』 体当たり系ドキュメンタリーとしての楽しさ

“禁欲”ルールのリアリティーショー『ザ・ジレンマ』 体当たり系ドキュメンタリーとしての楽しさ

 「バカタレー! お前ら大金を使(つこ)うて何やっとんじゃ~!」。心からそう思う瞬間がある。心の作画が『はだしのゲン』になってしまう時がある。何の話かというと、Netflixオリジナルのリアリティーショー『ザ・ジレンマ:もうガマンできない?!』の話だ。

 『ザ・ジレンマ』は、性欲が極めて強い美男美女を集め、南海のゴージャスな孤島で共同生活させるリアリティーショーだ。いわゆる『テラスハウス』系統だが、特異なのは「禁欲」がルールになっていること。キスはもちろん、体への接触や性行為はルール違反と見なされる。そしてルールを破った者が出れば、その行為の代償分だけ賞金10万ドルが少しずつ減額される。しかし……。

 結論から書くと、『ザ・ジレンマ』は恋愛リアリティーショーとしては失敗している。この手の番組は、まず明確なルールが必要だ。次に魅力的な登場人物が必要になる。『ザ・ジレンマ』には、どちらもない。ルールはコロコロ変わるし、そもそも冒頭に示すべき「最終的にこうなった人が優勝」というゴールが明示されていないのだ。これはリアリティーショーとして致命的な欠陥である。視聴者は番組をどの視点から見ればいいのかサッパリ分からない。いわゆる天の声的に語られる「成長せよ」というメッセージも、押しつけがましく、説教くさい印象がある。酷評されているのは仕方がないと思うが、それでも私がこのリアリティーショーを楽しんでしまったのは、自分と全く異なる価値観の人々が題材になっているにも関わらず、どこか身につまされる部分があったからだ。

 この番組に出てくる人間は、私とは正反対の人間だ。つまり顔がよくて、恋愛経験が豊富で、性行為が趣味な人間たちである。ハッキリいって、彼ら彼女らの思考回路が前半はサッパリ理解できなかった。キーボードを担いで登場し「エリーゼのために」を弾き出す人物をはじめ、見た目も中身もクセが強すぎるし、確実に一緒にいたら疲れるタイプだ。というか、性行為やキスをしたら減額というが、逆にいえばそれらを我慢すれば10万ドルもらえるのである。自分を慰める行為も禁止だが、“15の夜”ならいざ知らず、1カ月くらい余裕である。いくら何も聞かされずに島に連れてこられたとはいえ、「1カ月の禁欲で10万ドル」、このおいしすぎる話に拒否反応を示す理由が分からない。しかし、彼ら彼女らは我慢できないのである。速攻でルールを破り、キスをして3000ドルを失う。当のカップルは「やっちゃったよ~」とヘラヘラ笑い合っていて、私の心の作画は、たちまち『はだしのゲン』である。しかし一方で、真顔でブチギレている人間もいた。「会計」というアダ名をつけられる、超ムキムキのケルスだ。

 私はまず、このケルスにものすごく同情してしまった。そしてこの人は私の期待を裏切らず、番組を通じて真面目に禁欲を続けるのである。全8話を通じて、出てくる映像は筋トレばかり。そりゃそうだ。10万ドルのためなら、我慢するのが普通だろう。もちろんこれはリアリティーショーで、Netflixという巨大なプラットフォームで配信されるコンテンツだ。ここで大暴れした方が話題になるし、そこから有名人としてブレイクできるかもしれない。しかし、彼はそこまで大胆になれなかった。この堅実さに、妙な親近感を抱いてしまった。なので、メンバーが「行為」をやらかして減額が発生する度に、彼の目がドンドン死んでいくのが気の毒でならなかった。

 一方、ハリーとフランチェスカというカップルも忘れ難い。2人は恐らく本作の主人公格だ。ハリーはオーストラリア出身の男性で、モデルのような容姿だが、アホの擬人化といった雰囲気をまとっている。先ほどから「ヘラヘラ」という表現を使っているが、そのほとんどはコイツのせいだ。そしてハリーとくっついたり、くっつかなかったりするフランチェスカ。こちらもなかなかの曲者で、時には「みんなを困らせてやれ!」とルールをブチ破る。危険思想の持ち主だ。この2人がまぁ酷い。10万ドルをガンガン減らしていき、何なら「ルールを破るのって楽しくない?」などと持論を展開する始末。心が『はだしのゲン』になる主な理由は、こいつらのせいである。前半のうちは、完全にこちらの心はゲン、2人は町内会長だ。しかし……。見ていくうちに、ちょっとずつ2人への印象が変わっていった。ルール違反を繰り返す2人を見るうちに、少しずつ2人の心理が理解できてくるのである。

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