志村けんさんの演技をもっと観たかった 『エール』小山田役で放ついぶし銀の貫禄

志村けんさん『エール』で放ついぶし銀の貫禄

 ほかにも、小山田は裕一が交響曲「反逆の詩」を書き上げる第8週「紺碧の空」第38話、環(柴咲コウ)の歌で「船頭可愛いや」をリリースすることに反対する第10週「響きあう夢」第48話で登場。前者は三日三晩徹夜で書き上げた裕一の「反逆の詩」に、「……で?」と楽譜を投げ捨てるという冷たい反応。後者は青レーベルからレコードを出そうとする裕一に反対する小山田を環が説得するというものだ。鋭く睨みつける小山田に、環は「その目を見たことがあります。ドイツにいた頃、先生と同じ目をした芸術家をたくさん見ました。彼らは立場を脅かす新しい才能に敏感です」と本心を見透かせてみせるが、小山田は一向に裕一の才能を認めようとはしない。

 残念ながら、今のところ小山田の登場はこれ以降なく、以後はナレーションベースで存在し続けるものと思われる。結局、小山田から裕一への賛辞の言葉はなかったが、彼の才能を認めコロンブスレコードに推薦したことは紛れもない事実である。そして、この役が志村さんが生前最期に演じた姿。サロンでアイスを食べ、部下に原材料を聞いては、「わしは木の実を食ってるのか?」と返すお茶目な様子もありながら、一貫して厳格な姿を見せた小山田は、志村さんラストの役柄として相応しい人物であったように思う。

 小山田の魂は新世代の音楽家・裕一へと受け継がれる。そして、志村さんの演技は私たちの胸に希望のエールとしていつまでも残り続けるだろう。

■渡辺彰浩
1988年生まれ。ライター/編集。2017年1月より、リアルサウンド編集部を経て独立。パンが好き。Twitter

■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)〜9月26日(土)予定
※6月29日より第1回から再放送中
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみ、薬師丸ひろ子、菊池桃子、光石研、中村蒼、山崎育三郎、森山直太朗、佐久本宝、松井玲奈、森七菜、柴咲コウ、風間杜夫、唐沢寿明ほか
制作統括:土屋勝裕
プロデューサー:小西千栄子、小林泰子、土居美希
演出:吉田照幸、松園武大ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/

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