森山未來×黒木華の圧倒的な演技力を堪能 『プレイタイム』に込められた劇場復活への願い
7月12日、演劇界において新たな試みが行われた。新型コロナウイルス感染拡大の影響により約4カ月の休館を余儀なくされていたシアターコクーンが、再始動につき、「ライブ配信のための演劇」を立ち上げたのだ。12日に配信され、オンデマンド配信も決定したシアターコクーン ライブ配信『プレイタイム』である。
出演は森山未來と黒木華。歌舞伎、現代劇問わず様々な新しい作品を手掛けてきた杉原邦生と、建物の構造や周囲の環境から着想を得たインスタレーションを制作してきた梅田哲也が手掛け、さらにBaobabの北尾亘や、ミュージシャンの角銅真実ら7名が参加するなど、若い才能が結集した。
連日劇場クラスターが報じられ、劇場での公演再開を目指す演劇界には受難の時が続く。だがこういった、映像による配信と劇場での上演をセットにすることによってできた新しい形の表現方法は、演劇の新たな可能性として特筆すべきだ。
演劇は劇場でやってこそのものという大前提はあるが、配信の併用によって間口が広がり、観たくても観に行けない地方在住の人、もしくは興味はあっても値段を気にして敷居が高いと感じていた人を取り込むことができるというメリットは十分に大きい。
原案は、梅田哲也の作品『インターンシップ』。とある男女の他愛もない会話と、変容していく関係を描いた岸田國士の戯曲『恋愛恐怖病』を軸に、4カ月の眠りから覚めた「シアターコクーン」という劇場そのものを描いた。これは、「主演:劇場」の演劇であり、「劇場を観る」ための演劇だ。「劇場」を主演として、案内人としての役割を担う森山未來と、神聖なるヒロイン・黒木華が、劇場を形作るスタッフや演奏者、演者たちと共に、劇場を構成する重要なパーツとして存在している。
今回、企画から関わっている森山は、恋に苦悩する男をセクシーに演じながらも、常に我々観客の案内人としての役割に徹している。優れた身体性によって繰り出されるその身のこなし、自在なダンスはやはり素晴らしい。まだ正式な形を成していない舞台装置と戯れ、あっという間にそれを身体の一部に取り込んでしまう。
黒木は、艶やかで力強いドレス姿はじめ、とにかくいろんな一面を見せる。開演前のパートにおける、劇場という神に恭しくかしずくかのような神秘的で凛とした佇まい。本編で見せる、男を翻弄する魔性の美しさ。そして、舞台の幕が下りた後、緊張が解けた瞬間、素の一面が零れ出る可愛らしさ。
ドラマ『みをつくし料理帖』(NHK総合)でも想い合う2人を演じた彼らの息の合ったやり取りは、観客をあっという間に物語の世界に引きずり込む。
冒頭、照明がつき、舞台装置が起動する。俳優は時に掛け合い、時にそれぞれの世界に没入しながら台詞を喋り、彼らに構わずモップをかけるスタッフたちが通り過ぎ、演奏者たちの音合わせとマイクチェックの音声がセッションのように交わりあう。眠っていた劇場は、彼らによって息を吹き込まれ、生き物のように動き出す。
森山や黒木が闊歩するその先の世界は、私たちの知っている劇場の反対側である。月に見立てたライトを灯し、劇場の至る所を歩く森山と共に見る世界は、さながらバックステージツアーだ。開演前の様子だけでなく、機材を撤収する終演後の様子も見ることができることも新鮮だ。つい演者ばかり見てしまいがちな演劇が、こんなにもたくさんのスタッフの力によって支えられているのだということを改めて考えさせられた。