ドニー・イェンが見せる新たな姿 『スーパーティーチャー 熱血格闘』は今だからこそ観るべき!

『スーパーティーチャー』が示す人生のヒント

 情け容赦ない超学歴社会、実情と噛み合わない社会システム、思春期特有の鬱屈と葛藤、そして生まれついた環境……香港で暮らす少年少女たちは、将来に希望が持てず、ある者は非行に、ある者は鬱屈した日々を送っていた。そんな不良生徒たちのもとに、「デンデデデン、デンデッデデン」と「POISON ~言いたい事も言えないこんな世の中は~」by反町隆史のイントロが聴こえてくるような、型破りな先生がやってくる。しかもその先生は、宇宙最強の男ドニー・イェンだった……。

 きたる6月24日、遂に『スーパーティーチャー 熱血格闘』(2018年)がソフト化される。本作は、母国で宇宙最強という身も蓋もない異名を持ち、今や世界のアクション映画界のトップを突っ走る男、ドニーさんことドニー・イェン主演の熱血格闘青春映画である。今回はこの作品の魅力について語りたい。

 まず結論から書くと、本作は「おらが学校にドニー先生がやってきた!」という一発ネタには終わらず、意外なほど(と書くと失礼かもしれないが)真っ当な青春群像劇であり、香港の教育問題に関する熱いメッセージ性を持った、爽やかな学園モノである。101分というコンパクトな上映時間ながら、TVドラマの1クール分のトラブルが次から次へと襲いかかり、ドニーさんがその全てを怒涛の勢いで解決していく。生徒たちの個人的な悩みから、学校組織全体の問題まで。およそ学園モノと聞いて思い浮かぶ全てのトラブルが舞い込んでくる。しかし、ドニー先生はその1つ1つと丁寧かつ現実的に向き合う。たとえば、アルコール依存症の家庭にはリハビリ施設を紹介するなど、社会問題に対しての回答が非常に具体的なのだ。これはしばしば精神論に陥りがちな熱血学園モノには珍しい。また、この手の“型破りな教師モノ”への痛烈なカウンターになるオチのつけ方も秀逸だ。もちろん、ひょんなことから総合格闘家集団と戦ったり、学校に乗り込んできたヤクザ軍団と対峙したりと、アクション的な見どころも盛りだくさん。単なる鉄拳教育改革モノだと侮ってはいけない。非常に濃密な映画体験となるだろう。

 そしてドニーさんファン的には、新たなドニーさん像を見ることができる点も注目だ。ドニーさんといえば、演じる役の脂の乗り具合が0か120で知られる。ここでいう0とは、槍の達人を演じた『HERO』(2002年)、当たり役となった『イップ・マン』(2008年~)、盲目の修行僧役で強烈な印象を残した『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016年)のような、穏やかでストイックな人物。そして120とは、刑事であるにも関わらず、目立ちまくりの全身ブラックのレザーにシルバーのアクセサリー、シャツの胸元全開の『SPL/狼よ、静かに死ね』(2005年)(これでも本人的には地味にしたそうだ)や、白のタンクトップ&タトゥーの入ったマッスルスタイルで、爽やかな笑みと共に人を蹴りまくる『トリプルX:再起動』(2017年)のような、超ギラギラの俺様キャラだ。だいたいこのどちらかに行きがちなのだが、本作はこの両極端の中央に位置する、いわばドニーさん折衷案になっている。普段はカジュアルでジェントルな先生だが、おとなしめの服を脱げば、ムキムキで古傷とタトゥーだらけ。生徒たちを優しく導きつつ、ひとたび戦闘モードに入れば、鬼のような強さで敵をボコボコにする(実は過去にも秘密があって……)。今回のドニーさんは、達人でも俺様でもない。完成されているようで、実は自身も修行中。そんな等身大の人間くさいキャラクターは、今まであったようでなかった、新鮮なドニーさんだ。個人的に、このドニーさんが非常に良かった。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「映画シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる