坂元裕二が『Living』に込めた、人間に対する渾身の“愛” 広瀬姉妹×永山兄弟の第1夜を振り返る
珠玉の30分だった。坂元裕二脚本ドラマを待ちに待っていたテレビドラマファンにとっては特に。
先週放送の第1話・第2話に続いて、6月6日に第3話・第4話が放送される『リモートドラマ Living』(NHK総合)のことである。
NHKは、『今だから、新作ドラマ作ってみました』、NHK大阪局発の『ホーム・ノット・アローン』と、コロナ禍で通常のテレビドラマ収録が困難になってしまった今だからこそできるドラマ作りをと、複数のリモートドラマを制作してきた。
『カルテット』(TBS系)、『最高の離婚』(フジテレビ系)脚本の坂元裕二と、『あまちゃん』『いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜』(NHK総合)を手がけた制作統括の訓覇圭らがリモートドラマの新たな可能性に挑んで作った『Living』は、2点において、他のリモートドラマとは一線を画している。1つは、直接的には「コロナ禍の現状」が描かれていないことであり、もう1つは、本当の家族である俳優たちが家族を演じることで、物語空間自体が分断されるのを防いだことである。
それは、広瀬アリス×広瀬すず姉妹、永山瑛太×永山絢斗兄弟がリビングでワチャワチャしている姿を見る微笑ましいモキュメンタリーのようでいて、各15分の短篇とは思えないスケールで、この地球における「人間」とは何なのかを描く、非常にスリリングで不穏なファンタジーでもあった。
まず、大枠として、4つの物語、並びに登場人物たちは、地球にとって人類は無価値だから滅びればいいと語る、壇蜜の声によるCGキャラクター・ドングリ相手に、「人間」をなんとかして肯定して見せるために、阿部サダヲ演じる作家の頭の中から生み出された創造物だ。
『ネアンデルタール』広瀬アリス×広瀬すず
まず「人間の長所」を描こうと作家が登場させたのは、広瀬アリス・すず姉妹演じる、滅亡の危機に瀕しているネアンデルタール人の姉妹だ。「社会性という武器によって弱者を守り、皆で力を合わせてきた」と冒頭肯定的に描かれたホモサピエンスは、ネアンデルタール人姉妹の毒舌によって、「コミュ力(つまりは社会性)が高いだけで、社会の輪の中から外れたら露骨にいじめてくる」とあっさり否定される。
「私たち、あとちょっとしかいないのに」と嘆くクコ(すず)にとっての「私」は、「姉妹」である前に「ネアンデルタール人」という種に属している「私」だ。個があって種族があるのではなく、種族があって個があるのだと彼女は信じて疑わない。そんなクコがホモサピエンスの男性に恋をすることによって、彼女は種族から解放され、個として自由になり、姉妹は喜び踊る。しかしそれによって、ネアンデルタール人は滅亡してしまう。
さらには、クコが好きになった「ハヤマくん」は彼女たちが憎むべき多数派「ホモサピエンスのメス」がより好む「ちょっと悪くてちょっと可愛い」系男子だったというのも興味深い。少数派の彼女たちもまた、「コミュ力が高い」ホモサピエンスという多数派の「社会の輪」に取り込まれたのだとも言えるのである。