TVアニメ『LISTENERS』は音楽ファン必見! 現実のロック史を巡るような“仕掛け”を読み解く
例えば『LISTENERS リスナーズ』では、各話ごとにひとつの音楽ジャンルがテーマとして打ち出されている。第1話「リヴ・フォーエヴァー Live Forever」では、サブタイトルにオアシスの代表曲「Live Forever」を引用。
舞台となるエコヲの住む街の名前「リバチェスタ」は、ビートルズを生んだリヴァプールとオアシスの出身地であるマンチェスターを掛け合わせたものだし、その町長であるマッギィ(CV:チョー)のキャラデザインは、オアシスやプライマル・スクリームらを輩出したイギリスの音楽レーベル、クリエイション・レコーズの創設者として知られるアラン・マッギーを彷彿させるもので、全体的に「UKロック」へのオマージュが散りばめられている。
続く第2話のサブタイトル「半分人間 HALBER MENSCH」は、ドイツの前衛的なバンド、アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンの代表曲から取られており、劇中にはミミナシをも制御する力を持つ三姉妹の祈手(プレイヤー)・ノイズ三姉妹が登場。この回のコンセプトは、いわば「ノイズミュージック」だろう。
そして、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの曲名を冠した第3話「ユー・メイド・ミー・リアライズ You Made Me Realise」では、轟音ギターと陶酔感のある歌を特徴とするジャンル「シューゲイザー」へのオマージュが頻出。本エピソードのメインキャラとなる、ケヴィン・ヴァレンタイン(CV:山寺宏一)とビリン・ヴァレンタイン(CV:水樹奈々)は、マイブラのケヴィン・シールズとビリンダ・ブッチャーを思わせる関係性だし、彼らの拠点となる飛行船「トレモロ技研」は、マイブラのEP『Tremolo』(1991年)から拝借したものに違いあるまい。他にもビリンとケヴィンのセリフの中に、マイブラ「Feed Me With Your Kiss」やライド「Chelsea Girl」といったシューゲイザーの名曲の曲名が引用されていたりと、わかる人ならば思わず唸ってしまうネタが満載だ。
そういった遊び心はどんどんと加速していき、ニルヴァーナ「Smells Like Teen Spirit」が元ネタとなる第4話「ティーン・スピリット TEEN SPIRIT」では、カート・コヴァーンがモデルと思しき女の子キャラ・ニル(CV:釘宮理恵)が登場。祈手(プレイヤー)の養成学園「フリーク・シーン・アカデミー」(この学園名はダイナソー・Jrの曲名「Freak Scene」から取ったものだろう)を舞台に、ピクシーズからスマッシング・パンプキンズまで、80年代末期から90年代にかけて人気を集めたジャンル「グランジロック」へのオマージュが次々と物語を彩る。ニルの相棒となるキャラクターの名前が、カート・コヴァーンの配偶者だったコートニー・ラブがフロントを務めたバンド名と同じホール(CV:下野紘)というのも気が利いている。
極めつけは、第5話の「ビートに抱かれて When Doves Cry」。このサブタイトルは、プリンスのヒット曲「When Doves Cry」とその邦題「ビートに抱かれて」に由来していることは一目瞭然だが、本エピソードでは、もはやプリンスそのものと言えるキャラデザインの祈手(プレイヤー)・殿下(CV:諏訪部順一)を軸に、プリンスへの愛とリスペクトに満ちたストーリーが展開される。殿下の寵愛を受ける祈手(プレイヤー)コンビのウェンディ(CV:本名陽子)とリサ(CV:ゆかな)は、プリンス率いるザ・レヴォリューションのメンバーとして活躍したウェンディ&リサがモデルだろうし、殿下が自身の統治するペイズリー・パーク(これもプリンスの曲名および、それにあやかって付けられた彼の自宅兼スタジオの名前と一緒だ)にお忍びで訪れる際の偽名・キッドは、プリンスが自身の初主演映画『パープル・レイン』(1984年)で演じた役名と同じものだ。